2013.11.20 Yukio Uchida

内田ユキオによるXF27mmF2.8のレビュー

Yukio Uchida

新潟県両津市(現在の佐渡市)出身。公務員を経てフリーに。タレントなどの撮影のかたわら、モノクロでのスナップに定評があり、ニコンサロン、富士フォトサロンなどで個展を開催。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。現在は、写真教室の講師も務める。自称、「最後の文系写真家」。
主な著書:『ライカとモノクロの日々』『いつもカメラが』『THE FinePix X100 BOOK』

XF27mmの35mm判換算41mmという焦点距離は、一般に標準レンズとして用いられる50mmや35mmの中間となる焦点距離なので、「どちらかで事足りるのではないか」と思われることがある。

しかし、違いは大きい。35mmほど遠近感やゆがみがつき過ぎず、50mmほど背景ぼけで主要被写体が強調され過ぎることも少ない。被写体に素直に向き合い、描写できる。狭い部屋も広い場所でも巧みな構図が作れ、くさい演出感なく、さらっといい写真が撮れる。
写真家の仲間うちで、「最強のレンズは何mmだ?」と話すことがある。「実は40mm相当なのではないか」というそんな結論に至ったりもする。

引いても寄っても、いろいろな撮り方ができるレンズであるが、1本のレンズで撮ることによって作品に統一感が出て、ストーリーが生まれる。今回、X-Pro1・X-E1にXF27mmを装着し撮影した作品で、僕がテーマにした「窓」の世界を感じてみてほしい。

XF27mmの広すぎない狭すぎない画角と、周辺が歪まない特性を活かして、洋館の窓やランプの位置といった細部にまで意識して撮影した作品 だ。左の作品は、広く見せるために窓を3つ入れて、ワンポイントとしてランプを配置。明るい屋外の庭、しっとりと涼しげな室内と、輝度差が大きいところで もハイライトが飛ばず、シャドーもつぶれず、明暗差がしっかりと表現できている。XF27mmの高いコントラスト、抜けの良さと、Xシリーズの広いダイナ ミックレンジと高感度特性の良さ、まさしくこの相性がピッタリと合っているからこそ撮れたシーンだ。また、ランプのぼけ方が絶妙で、主張し過ぎず、画のア クセントとなり良い案配である。

Xシリーズのホワイトバランスは優秀だから、いつもは「オート」で撮影しているが、ここではホワイトバランスを「オート」から「電球」や「晴 れ」などに変えて撮ってみた。「電球」では寒色系の凜とした張り詰めた空気感を、「晴れ」では暖色系の暖かみのある作品にできる。「電球」モードの青の美 しさは、富士フイルムが優れたタングステンフィルムを作っていたことが活かされているように思う。ホワイトバランスを変更したり、さらにはフィルムシミュ レーションモードを組み合わせたりすることで、楽しみ方が幾重にも広がる。

洋館に置いてあったピアノを撮ってみると、やわらかな光を放つ金属面にピンと張った緊張感のある弦が見事に再現。モノクロのトーンの中にもな めらかなトーンがきちんとあり、弦の下の影さえも表現できている。まるでモダンアートを見ているようだ。XF27mmの高い解像性能はもちろんのこと、 X-Pro1・X-E1などに搭載されたX-Trans CMOSセンサーの解像力の高さ、階調の豊かさがこういったシチュエーションでも存分に活きてくる。特に、デジタルカメラでは難しい中間の階調さえもきち んと再現されるのは、富士フイルムのXシリーズこその魅力であり、強みであると僕は感じている。

レースのカーテンを撮ってみても、その良さは表れている。ピントが合っている部分からなだらかにぼけていき、ドレープに立体感が生まれている。そして、 レース部分を拡大してみると、1本1本の編み目までが見えるほど。気楽に撮っていても、この解像力。おそるべし、Xシリーズ。

外に出て、XF27mmでポートレートを撮ってみた。50mmレンズ的にポートレート撮影などにも使うことができる。

手前のギタリストを浮き立たせながらも、風景にたたずむ姿を写し出す。富士フイルムのレンズ交換式カメラにXF27mmを装着しても非常にコンパクトなので、相手を緊張させず、自然な表情をとらえることができる。
そして、Xシリーズならではの「肌色」、「緑色」の色再現の素晴らしさに加え、ギターの木目と弦のシャープな質感もよく出ている。木もれ日の間から美しい音色が聞こえてきそうだ。

気楽に撮っていても、高画質できれい。そんな写真を撮ってあげられたら、相手も喜んでくれるんじゃないかな。

ちょっと不思議な写真に思われるかもしれない。これは、日本家屋の庭を臨む座敷で上下を反転させ、多重露出モードで撮影した作品である。

柱や襖の枠の縦のラインがピッタリと合うように撮影した。ここまでピッタリと合わせられるのは、XF27mmに歪曲収差がないからだ。
太いラインと細いラインのコントラストが活きている。ハイライトとシャドー部のコントラストも作品性を高めるのに効いている。僕の多重露出撮影の技もここまできたかと、われながら感心する。

このような多重露出撮影は、いつもとは違う物の見方を示唆してくれる。建築物の特徴や美しさも再発見できる。
Xシリーズでは、パソコンや難しい操作がなくてもこんなに素晴らしい作品世界が楽しめる。ぜひ試してみてほしい。

外に出て見上げると、窓に映った空が美しく、思わずシャッターを切った。夕暮れ時だ。撮りたいと思った瞬間にすぐに反応してくれるレスポンスの良さもXF27mmの魅力だ。

露出を明るめにすると、窓のディテールは出るかもしれないが、窓の映り込みは再現できない。空の色も、雲も同様だ。ポジフィルムだったら写せたシチュエーションだが、デジタルカメラではなかなか難しい。
こんなシーンも、Xシリーズならば可能になる。露出補正をアンダーし、窓も映り込みも、空も、雲も、写したいものすべてをモノに。XF27mmに幅広い シーンに対応できる汎用性があるうえ、狙ったトーンを思いのままに写真にできるカメラのダイナミックレンジの広さ、対応力の高さがあるがゆえだ。

X-Pro1・X-E1のファームウエアアップデートによって、コントラストの低いところでのAFスピードも精度も上がっている。使い勝手がさらに向上した。

XF27mmは、質量78g・薄さ23mmと小型・軽量なだけでなく、高い描写力と汎用性によって、フルサイズ一眼レフカメラを凌駕する高画 質なX-Pro1・X-E1をより気軽に持ち出せるシステムへと生まれ変わらせてくれたと実感した。もし、レンズ1本だけ持って旅に、街にスナップに出か けるとしたら、一番活躍するのは間違いなくXF27mmだろう。なにしろこのコンパクトさが、カメラを持ち歩く心と体を解放してくれ、撮影意欲をかき立た せてくれる。

XF27mmを使い始めると、他のレンズのような特有の強調や派手さがないために、使いこなすのが難しいと感じることがあるかもしれない。しかし、このレ ンズでかっこよく見える位置、構図を探りながら撮っていくと、グンと実力が上がったと感じられる瞬間があるはず。シーンを切り取ること、画面の隙間を埋め ることを考えて撮るようになるからだ。
こうして撮影したシーンは、体が覚えている。写真を見ながら、「このときはこういう状況だったな。こうして撮ったな」と振り返ったり話したりできる。それも写真の楽しみのひとつだろう。

Xシリーズで新たな領域へと導いてくれるXF27mm。ドラマティックな瞬間をあなたのモノにしてほしい。