2016.05.06 FUJIFILM

最強のX、最愛のX

現在、最強のXシリーズと言えばX-Pro2だろう。異論はあるかもしれないが、最新のX-Trans CMOS、プロセッサをはじめ、多くの新機能が搭載されているのだから。だが、最もLovelyなXと聞いたら、その答えは収拾がつかないかもしれない。でも、筆頭候補になるのは他ならぬX100シリーズのどれかではないだろうか。

FUJIFILMは、X-Photographerをまじえての商品Feedback会議をよく行う。FUJIFILM側も、ある程度の改善提案を持ってこの会議には臨むのだが、X-Photographer達の要求は、常にその一段上ないしは斜め上をいく。
しかし、ことX100シリーズに関して言うといつも不思議なことがおこる。彼らはみな口を揃えて、”このままがいい。何も変えてはいけない”と言うのだ。しかも、彼らはそうは言いつつも”次のカメラのときは、どうなるんだ?”という期待も持っている。だから、彼らの言う”変えていけない”ところはどこなのかを慎重に探り当てて、進化すべきところを探しださねばならない。
おかげさまで、電子式レンジファインダーやクラシッククロームなどは好意を持って受け入れられ進化を重ねることができた。それも彼らが愛してやまないところがきちんと残っていたからなのだろう。

とりわけ、23mmF2の単焦点レンズは愛されているところだろう。
3世代に渡って採用されているこのレンズは、開放や近接では柔らかく・だが絞ると一転シャープになるという特徴が好まれている。いわゆる”一粒で二度オイシイ”レンズだ。35mm相当の画角が、非常に使い勝手がいいこともあり、これ1台ですべてをこなしている作家も珍しくない。
実際にSwedenのPer-Anders Jörgensenは、X100シリーズだけで写真集”Eating with the Chefs”を作り上げた。それは、たった1台のカメラしかも単焦点ので、撮りきられたとは思えないほど、バラエティに富んだ写真で埋め尽くされている。
“(カメラを)使いこなす”という言い方はあまり好きではない。しかし、この写真集を読んでいると、カメラが作家のまさに目となり手となった境地すら感じる。機材にまつわる多くの既成概念から解放されていくという感じだろうか。
 Eating with the chefs by Per-Anders Jörgensen 

それから、プロユーザーならではかもしれないが、彼らがこのレンズが大好きな理由は、レンズシャッターを搭載していることだ。
ストリートフォトの名手であり、かつライティングの第一人者であるZack Ariasは、早くからこの点に着目して、いくつもの作品をレンズシャッターならではのフラッシュ高速シンクロ撮影で試みている。Web Gallery “X-Photographers“でも多く見られるだろう。

レンズシャッターは、他にも抗しがたい魅力がある。例えば、その静粛性だ。いかなフォーカルプレーンシャッターでも、X100ほど静かには作動しない。X100のシャッターは、本当に小さな小さな音で”チッ”と鳴る。
ルポルタージュやドキュメンタリー、そうでなくても家族のプライベートな写真を撮るならば、こういった控えめな振る舞いは非常に有り難い。イタリアのX-Photographer、Gianluca Collaはよく”Get Close”という言葉を使う。どれだけ被写体に近づくことができるのか、それが写真の成否を決めるのだと。遠くから覗き見しているのでは写らないものがあるのだろう、文字通り内面に肉薄するために、カメラの佇まいは極力控えめに、その挙動はごく自然に。

他にも、X100シリーズの”ここが好き”をあげていけばきりがない。100人いれば100通りの理由があるだろう。しかし、そんなX100もデビュー当初は、相当な賛否両論とともにあった。
コンパクトカメラなのに、”なぜAPS?”、”なぜ単焦点?”、”いまどきレンジファインダー?”、”????”ほか、、、ロジカルな評論家筋には、冷ややかな反応を突き付けられたのが今となっては懐かしい。
しかし、それらのネガティブな反応は、当の商品企画者にとっては大して気にしてなかったようだ。なぜならば、それ以上の問答が社内会議で幾度となく繰り返されていたからだ。彼の名前はHiroshi Kawahara。まさしくX100シリーズの生みの親である。
実は彼は最近、Xシリーズの商品企画から離れ新たな道を行くことになったのだが、彼が残していった言葉は”自分の携わったカメラを愛せ”だった。彼の愛したカメラは、いまこんなにも多くの人に愛されている。