2023.11.09

GF110mmF5.6 T/S Macro: ポートレート x Nopawach Gajajiva

撮影機材の中でレンズが最も重要なものの1つであることは誰もが知っている。レンズごとに光を集め、異なる画角を作り出し、そのレンズが設計された目的によって様々な働きをする。広角レンズから望遠レンズまで、遠近感や画角はすべて異なっている。レンズの設計や絞りの大きさもそれぞれだ。加えて、魚眼レンズや今回紹介する「ティルトシフトレンズ」のように、特定の用途のために作られたレンズもある。

ティルトシフトレンズは、商品写真や建築写真などの商業写真で頻繁に使用される特殊なレンズである。こうしたレンズは、カメラの後方から見た画像の遠近感を調整したり(シフト機能を使用)、焦点面を変更することで、画像のどの部分でもシャープで適切なピントを合わせることができる(ティルト機能を使用)ことから、商業写真には欠かせない。

だが、ティルトシフトレンズの特性はクリエイティブな写真撮影にも活用できる。例えば、風景写真ではチルト機能を調整することで、ミニチュアシーンのようなイメージに仕上げることができるし、今回私が使用したのが、ポートレート写真で「ティルト機能」を使って焦点面を調整し好みの位置やスポットにピントを合わせるもので、イメージに独自性を加えることができる。

さて、ここではっきりさせておかなければならないことがある。ティルトシフトレンズはティルトや シフトをしない場合でも、通常のレンズとして使用することができる。はじめはティルト機能を理解するのはやや難しいかもしれないが、それを理解できれば便利で有益なものになるだろう。この機能を制御・調整できるようになるための鍵は、ピント面がどのように動作するかを理解することだ。

通常のレンズは、カメラセンサーに対して垂直な焦点面を作り出す。レンズのピントリングは近くから遠くへの焦点面の移動を調整し、絞りは被写界深度(DOF)を決定する。そのため、例えばF1.4のような大きな絞りで撮影すると被写界深度は浅くなり、絞りを絞って(数値を小さくして)撮影すると被写界深度は大きくなる。以上がフォーカルプレーンとは何か、そしてどのように利用されるのかの必要最低限の説明である。

さて、ティルト機能の使い方について説明しよう。端的に言うと、カメラセンサーに平行な大きな透明なガラス板のような焦点面を想像してほしい。焦点面には端の境界がなく、無限遠まで続いていることを忘れないように。ここでレンズのティルト機能を調整すると、ティルトされたレンズの前端とともにガラス板(焦点面)も傾く。絞りを小さくすれば、ガラスシートは厚くなり、焦点面に奥行きが出る。というのが、ティルト機能がどのように動作するかを説明するために私が思いついた最も簡単な考え方である。

ティルトシフトレンズで撮影された写真を見ると、はじめはピントの線が地面と平行になり、上部と下部がぼやけているように見える。多くの人は編集ソフトやインスタグラムのフィルターを使ってこの見た目を再現しようとする。しかし、そうはならないのが難しいところだ。ピント面は地面に対して垂直ではなく、むしろ傾いている。このため、フォトショップのようなソフトで正確に見た目を再現するのは至難の業だ。もちろん画像によって再現できる場合もあるが、実際はかなり難しい。

こうした機能を私が完全に使用できるようになったのも、FUJIFILM GFX SYSTEMがはじめてだ。85mmまでの大きなイメージサークルを持つ最新レンズFUJINON GF110mmF5.6 T/S Macroを装着したデジタル中判カメラで、チルトとシフトの両方が活用できる。すなわち、このレンズならGFXの中判センサーを難なく網羅し、画質を損なうことなく快適にティルト・シフトできるのだ。

FUJINON GF110mmF5.6 T/S Macroの、1箇所だけでなく2箇所の回転ポイントを搭載している点にも注目したい!これによりカメラを水平・垂直に持っても、どんな角度でも合わせることができる。すべてのノブとスイッチは筒部にまとまっており、片側はレンズのティルトやシフトの調整ノブ、反対側はチルトやシフトの度合いをロックするロックノブ、そして誤ってレンズを傾けることなく通常の110mmレンズとして使用するためのロックスイッチとなっている。

レンズの光学性能について:これまでに使用したレンズの中で、最もシャープなレンズの1つであると言わざるを得ない。中心からエッジにかけて、極めて高品質な画像を提供するレンズだ。