2020.02.05

X100V "My Approach" - ニック・ターピン

ストリートフォトグラフィー:撮る前に考える

ストリートフォトグラフィーという言葉は、現世代のフォトグラファーに受け継がれている言葉である。最初に使われたのはいつなのか、誰も知らないみたいだが、あまり適切な表現でないことはみんなが知っている。写真全般の中でも特殊でユニークなアプローチであることを示すには不十分な表現なのだ。

私は「Candid Public Photography(スナップ的パブリックフォトグラフィー)」という言い方を提案している。ストリートフォトグラファーが実際に行っていることをより広く定義できると思うからだ。これら3つの単語で、ストリートフォトグラフィーの境界が明確になると考える。

作品はフォトグラファーがシーンに介入することなくスナップ的に撮られる。つまり、フォトグラファーは観察者であってディレクターではないのだ。

題材は人々の生活であり、場所はストリートに限らず人々が自由に行き来するギャラリーや公園など、あるいは田舎であってもいい。

私たちが作る「写真」は「光で描く」画像であり、コンピューターやアルゴリズムで描くのではない。

なぜこれが重要なのか?家の外へ出てカメラを楽しむ、それではいけないのか?

答えはこうだ。写真は撮り方により記録としての価値と重要さに大きな差が出る、ということ。人の興味をそそる、あるいはおもしろい写真を撮りたいだけなら、そんなのは大した問題ではないかもしれない。だが将来世代のために、いまの私たちの暮らし方を記録するドキュメンタリーを作るとなると、こういったことを真剣に考えたくなるはずだ。 

ストリートフォトグラファーになりたいのであれば、最初にこう自問するとよい――「なぜ自分はストリート写真を撮るのか?何を自分はなしとげたいのか?」

ロンドンのバッキンガム宮殿での衛兵交代式を撮ったフルのビジーフレーム。世界観光、伝統、スマートフォンでの日常体験の撮影ぶりを記録。(Fujifilm X100Vで撮影)

選択可能なカメラ

ストリートフォトグラフィーは非常に特殊なアプローチであり、特定のタイプのカメラが必要である。小型で目立たず、高速で静か、高品質、そして何よりも、撮りたいシーンの邪魔にならないカメラである。長年の間、このようなカメラはわずかしかなかったが、ミラーレスカメラの登場により、現在では適したカメラの種類は大きく増えた。

私にとって、Fujifilm X100シリーズはストリートフォトグラフィーの真髄をとらえたカメラシリーズだ。小型、ストリートフォトグラフィーに理想的な焦点距離固定レンズ、高速で静か、光学と電子で切り替えられるハイブリッドビューファインダーなど、フォトグラファーを被写体にしっかりつなげるさまざまな特長を備えている。このシリーズのカメラは従来からある手動の絞りリング、シャッタースピードダイヤル、ISOダイヤルで簡単に調整でき、こうした部品にはかつてのストリートフォトグラフィー用レンジファインダーのようななつかしさを覚える。どの機種も外回りはシンプルだが、必要とあれば画質やハンドリングの設定を何種類ものオプションから選ぶことができる。

私がFujifilm X100シリーズを使い始めたのは3年前、機種はX100Fだったが、すぐに受けた印象はとにかく撮りたい気持ちにさせるカメラだ、というもの。準備は常にできていた、オートフォーカスは速くて正確、シャッターリリースは瞬間的。30年に及ぶストリートシューティングの間に出会った中で、最も「目の延長」に近いカメラだった。

話を一気に現在に移すと、いま私が使っているのはシリーズの最新モデルX100Vである。画質とスピードが従来モデルを上回るが、これはセンサーがよくてプロセッサーが速いからだ。このX100Vは外回りがさらに単純化され、ボタン類の数が減っている。ハンドリングもよくなり、小さなグリップがリアの理想的な位置に追加されている。片手持ち操作には実に便利だ。11 枚/秒の連写に加えて、4Kビデオ機能とチルト式LCDスクリーンがリアに追加されたことで、このすばらしいストリートカメラは旅行、ドキュメンタリー、ライフスタイルの写真撮影に適した万能タイプとなった。

ロンドンのキングスクロスにある大学を息子と共に訪ねた際に撮った「即席」写真。いつもカメラを持ち歩くことが大切だとわかる。(Fujifilm X100Vで撮影)

ストリートに近づく

この30年以上、私はロンドンのインデペンデント新聞のフォトグラファーとして、大規模なグローバル広告キャンペーンを撮ってきた。場所はニューヨークであったり、分野はファッション、有名人ポートレート、世界的なソーシャルメディアプロジェクトもあった。しかしどれも、やりがいという点では、ストリートの日常的混沌から特別なものを取り出そうとする試みにはかなわない。ストリートフォトグラファーには、頼れるものも人もまったくない。あるのは自分とカメラ、そして目の前のシーンの可能性だけだ。

どのようなカメラを使うにせよ、それを完全に知りつくす必要がある。操作方法の細部を考えずにすむようになるまで知りつくすのだ。そのためには、どこにでも持ち運び、絶えず使うしかない。私はFujifilm X100Fでは常に23mmで撮影するが、それはX100Vでも同じである。シーンごとに、画角を一杯使って撮るにはどれだけ後ろに下がればいいか、ファインダーを覗かずともわかる。ストリートフォトグラフィーの鉄則は、どこへ行くにもカメラを携行すること。ストリートでは、予想もしていないときに何かが起きる。

外出して写真を撮ることと、ただ単に写すことには違いがあると思う。私のストリート写真は落ち着きや熟慮を感じさせるものにしたい。シーンをまとめあげるために、さまざまな要素を見つけてフレーム内に配置し、それを繰り返して、最終的には要素間に対話が成立するようにしたい。これをやりやすくするための二、三のテクニックを紹介すると、まず、カメラを真っ直ぐに持ち続けて、あらゆる垂直なものがフレームの両サイドと平行に見えるようにすること。次に、バックボタンでフォーカスするとき、親指をカメラのリアに当ててフォーカスできるようにする。そして、フォーカスポイントを維持したまま被写体がオフセンターに位置するように再構成すること。

X100Vのような最新のカメラは、高いISO設定で優れた性能を発揮するが、これはつまり、500分の1秒以上の速いシャッタースピードで動きをフリーズできるということだ。また、絞りを小さくしてフレーム内のすべてを鮮明にし、背景の要素を前景の要素に並べ合わすこともできる。このため、後ろに下がって大きな構成にして、そこにたくさんの人々や要素を入れることができる。これが私の言う「タブロー ストリートフォトグラフィー」だ。これを達成するために、オートISO機能を使用し、シャッタースピードと被写界深度に合わせた露出設定をすると、カメラは自動的にISOを調整するが、私が設定する最大値はISO 3200である。 

速いシャッタースピードと小さな絞りでロンドンのウェストミンスターでビジーシーンを撮る。

ステージと俳優

数時間のストリートシューティングをやるとして、その間にすばらしい何かがカメラの前に展開することを期待するのは非現実的だ。そういうことはないわけではないがまれである。大きなエリアをカバーしようとすると、個々の物事が見えにくくなる。たとえばロンドンの写真を撮ろうとしても、これぞといえるような写真はめったに撮れない。でも物事は見え始めてくるのだ、同じロンドンの、人や車がせわしなく行き交う場所に立ち続けていれば。だから私は、公共の場所に着くと光の様子、空間、建物を観察する。さらに、背景、教会の尖塔、塔や柱、大通り、周囲の物が映っているガラスの壁に目を凝らす。誰もそこにいなくてもいい写真になるシーンやステージを見つけようと探してみる。このようにして早くも私の写真は半分できあがる、人がそこに着く前に、おもしろいことが始まる前に。そのあと私は、俳優が到着し芝居が始まるのを待つ。そこそこ人々が行き交う場所でしばらく待っていれば、あらゆる奇妙な出来事が目の前で起きる。異常なこと、予想外なことが最も多く起きる場は日常であり、そこにこそストリートフォトグラフィーの本質と途絶えることのない魅力がある。

ロンドンのトラファルガー広場の建築物を背景にした古典的な人物タブロー。(Fujifilm X100Vで撮影)

場所やテーマを決めて行うストリートフォトグラフィー

ストリートフォトグラフィーでは、自己完結した個々の画像を作成するわけだが、場所やテーマを決めて撮っていくのも有益だと思う。こうすると、その場所やテーマに何度も戻って画像を増やそうという意欲が湧いてくる。私はそれなりに多忙なコマーシャルフォトグラファーでもあるので、選ぶ場所は、天気がよく自由な時間が少しあれば行きやすい所である。

私はここ数週間、ロンドンのバッキンガム宮殿で衛兵交代式を見にくる観光客たちをFujifilm X100Vで撮影してきた。現場の面積はおよそ2000平方メートルとかなり広いが、何日か経つうちに、観光客たちを観察するのに最善のステージが見つかり、どこで何が起こるかがわかった。そろってスマートフォンを頭上高く掲げる群衆といった、予想どおりの写真を撮ったが、予想外のシーン、たとえば明るい陽光の中で旗を振る制服姿の男とか、幼い娘と赤ん坊を入れた紙袋を持った父親なども撮ることができた。これらは、撮るのに時間と忍耐を要する写真、カメラを持って家を出るときには想像もできなかった写真、そして、将来の行動予定を何も持たないストリートフォトグラファーだけが撮れる写真である。

バッキンガム宮殿の衛兵交代式をスマートフォンで撮影する観光客たち。Fujifilm X100Vで撮影

バッキンガム宮殿の衛兵交代式に向けて旗を振る愛国的なビジター。Fujifilm X100Vで撮影

バッキンガム宮殿の衛兵交代式の際に出現した完全に予想外のシーン。Fujifilm X100Vで撮影

バッキンガム宮殿の衛兵交代式の際に冬の夕陽を避けて目を覆う女性。Fujifilm X100Vで撮影