2017.08.22 Serkan Gunes

夢が叶った私のドリームカメラ

Serkan Gunes

1980年、トルコのイスタンブールで生まれ、2000年にスウェーデンに移住した。22歳の誕生日に初めて自分のカメラを手にし、ギターに注いでいた情熱が写真に移り彼の生活は一変した。そのカメラとともに、スウェーデン国内の森林地帯や湖、群島など様々なところへ足を運び、「Nordic Light」と出会った。
Serkan Günesは若い写真家を対象とした「エリック・ホスキング賞」をスウェーデン人として初めて受賞した人物である。コンテストはBBC Wildlife Magazineとロンドン自然史博物館が毎年開いており、今日のワイルドライフ写真において最も権威のある賞とされている。また、スウェーデンの環境保護庁から2009年のNature Photographer of the Yearに選出された。彼の作品は北欧をはじめ世界各国で出版されており、スウェーデン自然写真家協会のメンバーでもある。
彼は風景写真を特に愛し、詩的な独特のセンスで切り取られた写真は自然の本質を捉えている。

2009年以降、私は中判カメラを使って風景写真を撮っている。

初めて中判カメラを使ったときの興奮を今でも鮮明に覚えている。デジタルバックから取り込んだファイルを開いた瞬間後戻りはできないと悟った。何でも出来てしまうんだ。信じられないくらいの情報量が詰め込まれているので、ファイルを極限まで編集しても劣化することがないんだ!それに中判ならではの描写にも惚れ込んでしまった。緻密なディテール、それにあの奥行き感。これを知ってしまったからには、私のスタイルは変わったと同じだった。それに、中判カメラを使うことで写真家として飛躍的に成長させてくれる可能性を感じ取ったんだ。
目の前にある風景の捉え方が変わった。細かいディテールも写し出されるので、複雑な構図や実験的な撮影作法など色々と試すことが出来るようになったんだ。

だけど、ひとつだけ問題があった。納得のいく仕上がりにするためには撮影後の編集にとてつもない時間が必要だった。風景写真ではありのままの色で表現することがとても大切。シャドーからハイライトまで自然に忠実に描写しなければならない。撮影後、コンピュータに向かう時間は膨大なものとなった。

だけど、2012年からは撮影後の編集が必要なくなってしまった。
中判カメラにとても満足していたから35mmサイズやAPS-Cサイズのカメラを再び使うなんて想像すらもしていなかった。だけど、北極圏で開いたワークショップでたまたまFUJIFILMのカメラを使ったことがきっかけで、私のスタイルは再び変わってしまう。その時使ったカメラは、X-Pro1とXF18mmF2 R。ワークショップは、参加者に撮影方法を教えることが目的だ。なので、自分の作品を撮ることはない。シャッターを切るときは、そのワークショップの風景を収めるときくらいだった。だから、このコンパクトなカメラはその時の私のニーズにとても合っていた。もちろん、そんな時もRAWで撮影をしたよ。

ワークショップから家に戻る頃には、このカメラに愛着がわいていた。使い方は簡単だし、クラシカルなデザインに魅力を感じた。コンピュータ上でファイルチェックするのが楽しみだったんだ。ファイルを開いて驚かされたのが色再現力。2006年からデジタルカメラを使っているが、色で満足したのはこのカメラが初めてだった。私が記憶していたその風景と全く同じだったんだ。だから撮影後の編集は、シャドーとハイライトエリアを少し持ち上げて、彩度をちょっとだけ調整しただけ。それで、完成だった!

1ファイルにつき要した時間はたったの45秒。中判カメラを使うときは1ファイルにつき1時間必要としていた。比べ物にならないくらい一瞬で終わってしまう。それに、X-Pro1のダイナミックレンジも優れていたよ。だけど、当然ながら中判カメラならではの描写にはなっていない。中判カメラだから成す奥行き感やディテールがそこにはなかった。富士フイルムの色が中判カメラで描写されたらどんなに素晴らしいことだろうと想像を膨らましたものだ。これが4年後に本当に実現されるとはその当時夢にも思ってもいなかった。

そして今、GFXがここにある。
幸運なことに、私は開発中だったGFXのテスターの一人に選ばれた。GFXで撮った画像ファイルを初めて開いて見たときの悦びと言ったらどのように言葉で伝えたら良いのかわからない。リッチなディテール、程よいシャープネス、それにあの奥行き感。中判ならではの描写が富士フイルムの色でそこにはあった。GFXほど小さなボディにこれだけの性能が詰め込まれていることに未だ驚きを隠せない。GFXの明るいビューファインダーは最高の仕上がりだ。チルトもできてしまうんだよ!

フジノンの中判レンズは、フィルム時代からなじみがある。だから、GFX用のレンズ性能も最高であると疑う余地もない。お勧めはできないけど、被写界深度を稼ぐためにF値を22~32まで絞り込んだで撮ったこともある。その時の結果も申し分なく素晴らしい。今までのレンズだとF32で撮った写真なんて使い物にならなかった。富士フイルムはどうやってあのF32の描写を実現したのか不思議でならない。もちろん、F11やF16と比べるとディテールやシャープネスは損なわれている。だけど、作品として発表できるほどな描写だ。

GFXの魅力は、中判フォーマットと富士フイルムの色だけに留まらない。このカメラはミラーレスでもある。この事実は、私の期待値を超えていた。以前使っていた中判カメラのシステムの重さは7キロ。重くなればなるほど撮影時の行動範囲が狭まるし、持って行ける食料やキャンプ用品も減らさなければならない。それに比べてGFXの総重量は2.5~3キロほど。荷物の総重量が25キロくらいだから、1グラムでも無駄を省きたいんだ。

GFXシステムは、私が待ち望んでいたすべてを兼ね備えている。富士フイルムの色再現、軽量なミラーレスボディ、フジノンレンズ、それはプロ写真家向けに考えられたトータルソリューション。

実は、今もう一つの夢がある。
私の思い描く新たな夢はGFX用に設計されたチルトシフトレンズだ。フジノンの広角チルトシフトレンズとGFXを使って撮る風景写真を想像してほしい。チルトシフトがあれば、F11で十分。F32まで絞り込む必要もない。シャープネスと被写界深度のベストバランスだと思う。幅2メートルほどのプリントに仕上げてもディテールも損なわないだろう。次は4年も待たなくていいことに期待をしたい!