2015.08.24 FUJIFILM

One lens one story #3

レンズ設計者にとっては、それがマクロレンズかどうかというのは非常に重要なことらしい。
曰く、”マクロレンズという前提がつけば、同焦点距離・同F値でも別物の設計をすることになる”。
マクロレンズは、卓越した解像力を、近接撮影においても実現する、という非常に高い要求をクリアしなければならない。
たしかにXF60mmF2.4 R Macroも、そのMTF線図を見る限り非常に優秀だ。しかし、このMTF線図を見て”なるほど”と言うのは早計だ。
なぜならば、カタログ等で用いられるMTF線図というのは、無限遠の被写体を撮った場合の性能を前提に書かれているのだ。Macroレンズだからと言って、”遠くの被写体を撮ってはいけない”というルールは無いが、本レンズにとっては、やはり近接時の性能がどこまで出ているかの方が重要だろう。
いわゆる近接撮影において効果的な収差補正をする設計手法として、フローティングフォーカスが採用されることがある。 例:XF16mmF1.4 R2つのフォーカス群を動かすことで、夫々の撮影距離での収差変動に対応するというものだ。
これに対してXF60mmは、”前群繰り出し方式”が採用されている。動かすフォーカスレンズ群は1つだが、その設計上の思想は非常に似ている。動かす前群に対し、固定される後群のレンズ、これが近接撮影時の収差補正をしているのだ。
XFレンズで最高クラスの解像性能を誇るXF60mmの光学的な秘密はここにある。XF60mmを使用するとわかるが、近接撮影時には、ググっと鏡筒部分がせり出してくる。その鏡筒部分は、”前群”となる7枚ものフォーカスレンズユニットが詰まっている。そして、レンズ後端に残された”後群”グループの3枚のレンズが、適切な収差補正をする。
ややもするとマクロレンズの挙動の遅さは、撮影者にストレスを与えるときがある。しかし、その代償にあるのは、目を疑わんばかりのキレ味溢れる描写である。ちなみに、XF60mm、どのあたりが最もシャープなのかというと、F5.6~8が解像のピークとなる。
撮影においては、被写界深度などを優先して適切なF値を選ぶべきだが、本レンズを使用するならば、覚えておいて損は無い情報だろう。

エピソード4を続けて読む:
One lens one story – エピソード4: XF35mmF1.4 R