2016.04.15 FUJIFILM

シャッターの性能

シャッターの性能とは何だろうか。1/8000秒などの高速のシャッターを切れることだろうか?1秒間に何枚も連写撮影できることだろうか?耐久回数も、重要な性能だろう。
たしかにカタログのスペック表には、これらが記載される。X-Pro2で搭載されたシャッターも、もちろんそういったことも考慮に入れられたが、開発中には、そういったスペック表には載らないことが検討されたことを今日は紹介したい。
ひとつは、”衝撃”だ。
最近では、ミラーショックという言葉がポピュラーになっている。一眼レフに内蔵されているミラーは、撮影するときに跳ね上がるわけだが、その際に発生する衝撃がカメラを微振動させる現象のことを言う。微振動はつまりブレであり、これが写真のシャープさに悪影響を及ぼす。これは精神的な話とか、プラシーボとかそういう話ではない。実際に”解像本数◎○本ダウン”というレベルでおこっている。
だから一眼レフを使ってる方でも心ある方は、ここぞという時にはミラーアップを試みる。その効果は大きい。三脚を据えて撮影できるときは、ぜひ試してみたいテクニックだ。しかし、本記事を読んでいる方の多くは、ミラーレスカメラ、とくにXシリーズを使っているのではないだろうか?そして”俺のカメラには、ミラーなど存在しない。ミラーショックフリーだ!”と、ほくそ笑んでいる方もいらっしゃるかもしれない。
その通り、ミラーレス構造のカメラならば、ミラーショック現象は起きない。しかし、それで十分かというと実はそうではなく、シャッター幕が動くときにもやはり同種の衝撃は発生する。もちろんミラーよりもシャッター幕のほうが質量も動作量も小さいので衝撃も小さいのだが、その衝撃をどこまで抑えるか、どう吸収させるかは、やはり重要なテーマになる。高画素化されローパスフィルターレスとなったセンサー、そしてそれに対応すべく高周波まで描写できるシャープなレンズ、その持ち味を最大限に活かすためには、どんな小さなファクターにも配慮が必要なのだ。

そのためには、衝撃の発生するメカニズムを分解する作業から始まる。先幕が上がる、走行する、後幕が走行する、チャージする。どこに強い衝撃がおきるのか、どう逃すのか、処理するのか。
具体的には、数多くの制振素材やシャッターユニットのマウント方法が試された。ある程度の見込みは立てながらやるが、作業は地道だ。一つづつ部材を変えて組み立てる。カメラに実装する。そして各速度でシャッターを切る。描写性能を測定する。繰り返す。どの組み合わせがベストかに辿り着く。決してスマートではない。だが確実だ。
そして、もう一つ、議論されていたものは”音”だ。
もしかするとFUJIFILMは、シャッター音に関しては少数派なのかしれない。FUJIFLMはシャッター音も、極力”控えめ”に、”大人しく”、”品よく”、と考えているのだが、開発協力企業より “そこまで音にこだわるメーカーも珍しい”と言われたことがある。ユーザーの皆さまからも、”撮ってることをアピールできる目立つ音にしてほしい”とリクエストされたこともとある。
しかし、大きい音、目立つ音は、ときとして撮影の邪魔になることがある。とくに、ReportageやStreet Snapなど、市井の人々が被写体となる撮影では、威圧しないような振る舞いが必要だ。被写体にフレンドリーなカメラ、シャッター、それはXシリーズの目指す理想形の一つでもある。

それを目指し、音を”音量”と”音質”に分解しチューニングしていく。前述の”衝撃”対策を行う過程は、”音”対策にも良い効果があった。良い”写り”を目指したら、良い”音”にもつながっていた。しかし、音のチューニングの最終段階は、シャッターユニットそのものよりも、その周辺部分にあったようだ。簡単な実験だが、レンズを外してシャッターを切ったときとレンズを装着してシャッターを切ったときでは、音が変わる。レンズでマウントを覆うことで、シャッター音がミュートされるからだ。シャッターユニットをハウジングする部分が、どれだけ大きな影響を持っているか、分かって頂けるだろう。
どのボディに搭載するかで、シャッターの”鳴き”も変わる。ボディの素材、形状、組み立て方、シーリングの是非、内蔵される他のパーツ類、それらが複雑に絡み合い、音が決まる。
“音”のためだけに、構造物を変更することは難しいが、考慮しながら設計することはできる。数値・性能一辺倒の設計では味気ない。エモーショナルな部分にこそ、一番大事なものが隠されているように思える。