相原正明によるXF14mmF2.8 Rのレビュー

2013.08.15

僕はこの35mm判換算21mm相当の「XF14mm」を、Xシリーズのレンズ交換式カメラ「X-Pro1」が発売されたときから待ち望んで いた。撮影のメインフィールドのひとつであるオーストラリアの大地の広がり、高く澄んだ空は、21mm相当のレンズでないと撮り切れない。 XF18mm(35mm判換算27mm相当)が日常で「広めに見えるな」という画角だとしたら、XF14mmは非日常的な「写真だからこそ見られる世 界」。まさに僕がオーストラリアの風景を思い描いたときの画角である。XF18mmよりももう一歩踏み込んだ、押し出すような力強い風景を写し出すことが できる。

アマチュア風景写真家の中には、80~200mmぐらいの望遠レンズで一部を切り取る人もいる。しかし、風景写真の王道はやはり、広角でしっかりと見せること。望遠レンズでの部分描写は、お寿司で言えばわさびみたいなもの。主役を引き立たせる味付けみたいなものである。

XF14mmによって、Xシリーズで風景を撮る基礎固めができた。これで僕のオーストラリアの風景ストーリーが完成できる。

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オーストラリア・タスマニアの世界遺産、クレイドル・マウンテンのセントクレア湖。世界で一番空気がきれいといわれるタスマニアの空気感を写真に表現するのは意外と難しいと思ってきた。
しかし、XF14mmはなんとも抜けがよく、クリアだ。見たまま、思い描いたままの気持ちよい画が得られる。

湖や空気の透明感はもちろん、岩についたコケの質感、山のエッジも見事に表現できている。XF14mmレンズの良さとX-Pro1/X-E1のダイナミックレンジの広さ。その相乗効果だろう。

広角レンズでは漫然と撮るのではなく、手前にポイントになるものを配置し、それを強調しながら画面全体の広さを写し出すことを意識するとよい。ただ広く撮 るのであれば、フィッシュアイレンズでもいいと思うかもしれないが、XF14mmは手前の強調と奥行き感がいいあんばい。誇張された歪みなく自然でありな がら、迫力ある作品を作ることができる。

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70mぐらいの高さまで伸びるユーカリの木の姿をXF14mmで写し出した。カメラを木に押しつけて、木のささくれだった表面の質感も出しつつ……。

XF14mmより焦点距離の長いXF18mmでは当然被写界深度が浅くなるので、手前側が少しボケるが、手前からきれいにピントが合うのが、XF14mm である。また、画角が広い分、ただ”空”ではなく、”天空まで”伸びている姿を表現できる。広角でもディストーションがないので、”まっすぐに”そびえる 力強さも出すことができる。

描写や階調も、硬すぎず、柔らかすぎず、ちょうどいい。それが硬軟混じり合わさった木々の息吹を余すことなく伝えるのに一役買っている。階調を硬くしたければ、シャープネスを強くする、コントラストを高めるなどをするといいだろう。

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タスマニア固有の植物・パンダニは、腹ばいになって、葉をかき分けてカメラを葉の間に入れ、最短撮影距離18cmのギリギリまで被写体に寄って撮影。葉の重なりのおもしろさと空の青さを表現した。葉の根元部分の立体感や質感もよく出ている。

一眼レフカメラや中判カメラではこうはいかない。画素数の大きいカメラだと少しのブレも再現されてしまうから三脚を使いたいのだが、三脚をつけたら、当然 こんなに被写体に寄ることはできない。X-Pro1/X-E1が程よいボディサイズ、画素数のカメラだからこそできた作品だ。

XF14mmでは、グッと寄ってワイドマクロもいいし、被写体が存在している周囲を含めた風景を収めることも可能だ。このような撮影でいいのが、手前のピ ントが合っているところから奥のボケたところにかけてのつながりが自然なことである。また、レンズの先端には距離指標、被写界深度指標がついており、ファ インダーや液晶モニターを覗かなくてもこれらを確認できることは、作画上、そして撮影動作上の助けとなる。引き出し式のAF/MF切り替えもしかりである。

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Xシリーズでは、モノクロのフィルムシミュレーションモードが充実している。フィルム時代は、カラーに向いた被写体、モノクロに向いた被写 体、両方あるような状況でも、どちらかを選択せざるを得なかったが、デジタルではボタン1つでカラー/モノクロに切り替えられるので、選択肢が広がった。 モノクロの場合も、硬質なパイプと光のコントラスト、柔らかい雪と微妙な空のグラデーションまで、見事に再現できる。比類ない点だ。

セントラルハイランドにあった水力発電所のパイプは、パイプに当たった光を強調するためにモノクロにした作品である。これこそまさしくXF14mmだから 撮れた作品。手前から奥に伸びるパイプは、肉眼で見たとき以上の迫力だ。僕の心象風景を具現化している。心の画角は、XF18mmよりもXF14mmのほ うが近い。

普段からレンズの画角を頭に描き、「こういうふうに見たい。撮りたい」というのをイメージしていると、被写体の前に立ったとき、自然に構図が作れる。被写体の迫力に負けて、散漫な画になってしまうこともなくなるだろう。

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僕はデジタルもフィルムもいろいろなカメラを使うけれども、選択基準は、被写体の特徴だったり撮影状況だったり、色であったりする。富士フイルムのデジタルカメラは、色がいい。特に他のメーカーが苦手とする中間色もである。

グリーンの再現は、各デジタルカメラメーカーが苦労しているところである。一口に「グリーン」といっても、明るいグリーン、深いグリーン、実にさまざまで あり、それらがプラスチックっぽくならず、沈まず、立体的に、質感までも再現できるかどうかが、デジタルとフィルムの大きな違いであった。

しかし、今回、X-Pro1/X-E1とXF14mmで撮影してみて、デジタルかフィルムかという選択ではなくなってきていると思った。設計が新しいレン ズは確かに描写力が進化しているし、X-Pro1/X-E1ではフィルムでしか再現できなかった領域も、卓越したX-Trans CMOSによってクリアしている。これで畳3枚分(1,800×2,700mm)まで難なく引き伸ばせるのだから、「もう、デジタルに変えてもいい」。そ んな決断にさえ至りそうである。僕の写真生活のターニングポイントになったXF14mm……といえるかもしれない。

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近景・中景・遠景というセオリーどおりの風景写真においても、手前から奥まで抜けのいい描写はいうまでもないが、暗部のつぶれそうでつぶれな いダイナミックレンジの広さ、薄暮の淡い階調の再現力……。見事である。太陽光が差し込むシーンでも、優れたコーティングのおかげで、フレアが出ない。

見たまま、思ったままの色、画が再現できるということは、撮影後にレタッチする必要がないということ。写真は本来撮ることを楽しむものであり、レタッチす る趣味ではない。X-Pro1/X-E1とXF14mmでとらえた画は、見たまま、思ったままを表現している。撮影後のレタッチの苦しみを考えることなく フィールドでの撮影を楽しめることは、写真を撮る者にとってなによりの喜びだろう。

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屋外での風景撮影だけでなく、立ち寄ったカフェ、身近な庭や家の中などでも、XF14mmは使える。
カフェやレストランなどでは、食事をメインに場の全体を入れ込んで、雰囲気までも伝える作品に仕上げることができる。X-Pro1/X-E1は高感度にも 強いので、感度を上げてみてもいいだろう。窓から入ってくる光もやわらかく、美しい。オーストラリアは石造りの建物が多く、一眼レフのミラーが上下する音 が響き、撮影を躊躇(ちゅうちょ)してしまうことがあるが、ミラーレスのX-Pro1/X-E1なら気にはならない。

カフェの庭にあったバラは、淡いピンク色のグラデーション、やわらかい花びらの質感が再現されている。日本の春、桜を撮影するのにも適しているだろう。春になったら挑戦してみる。 そして、背景に向かってボケる具合もきれいだ。ボケのつながり、ボケの形がきれいなのは、Xシリーズの特徴でもある。

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最後に、XF14mmでポートレートを撮影してみた。これは、友人が結婚したというので、記念に撮ってあげたもの。 ポートレート撮影で大切なのは、相手がバリアを持たないこと。一眼レフのような大きなカメラだと、どうしても相手がカメラを見て緊張してしまう。しかし、X-Pro1/X-E1なら相手を威圧することなく、自然な表情を投げかけてくれる。
ポートレートというと、望遠レンズと思いがちだが、XF14mmでグッと寄って撮影すると、相手の表情、雰囲気を写し出せるだけでなく、体温までもが伝 わってきそうだ。「人肌がきれいに写る」という富士フイルムのカメラ最大の強みもある。白人の赤みが差した肌も抜群に写る。

このように、今回はオーストラリアでXF14mmで撮影してきたが、この冬は、光が凛として良い東京で、建築を撮ってみようと思っている。仕事ではない ツーリングや下町歩きでは、XF14mmとXF18~55mmズーム、あるいはXF14mmとXF35mmを持って出掛けるだろう。いずれにせよ、 XF14mmは外せない。

僕の撮影テーマは、「地球のポートレート=アースレイト」。地球が奏でるダイナミズムや息吹を僕の心象を通して伝えることだ。XF14mmによって、今ま で収められなかった地球の表情を収められると思うとワクワクする。皆さんにもぜひ、XF14mmでしか形にできない世界を写真にしていってほしい。きっと これまでと違う瞬間に出会えるはずだ。

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