2022.11.24

X-T5 x Shiro Hagihara

X-T5インプレッション

長野県の北に位置する志賀高原は、私にとってメインフィールドといえる場所です。この場所は20年以上前から知っており、折に触れて訪ねていたので、身近な撮影地なのです。ただ、ここ4年ほどは毎月のように通い、今では月の1/3近くを志賀高原で過ごすようになったこともあり、それまでは旅人であった自分が、まるでそこで生活を営んでいるかのように感じ始めていることは、我ながら驚きの1つです。

 そんな志賀高原に、X-T5とともに過ごす時間を持つことができました。この新しいカメラを携えてフィールドに出たとき、撮影者たる私はいったい何を感じ、それに反応したX-T5はどう表現したのか、そんなことをお伝えしようと思います。

自然のリアリティを引き出したい

 風景写真を撮る者なら、そこにある現実をいかにリアルに再現できるかということに興味があるはず。もちろん私もそのうちの一人。その思いが実現できるのだろうか…。鬱蒼とした原生林で試したところ、限りなくリアルに近い写真を撮ることができたのは、表現者として嬉しい限りでした。自然のリアリティを引き出したいという表現者の願いを、4020万画素センサーの解像力が叶えてくれた瞬間でした。

X-T5 & XF10-24mmF4 R OIS WR

霧が漂う森を歩いていると、岩に根を張った木々が目の前に現れ、行く手を阻むかのようでした。低いアングルからその風景を見上げると、森の息遣いや匂い、潜む生き物の気配が感じられるようでした。きっとそのことが伝わる写真になっていると思います。

X-T5 & XF10-24mmF4 R OIS WR

目の前に現れたのは、鼻を高々と振り上げた巨象のような姿となった木と岩の姿。低い姿勢から見上げるアングルからその姿を捉えると、鬼気迫るものがあります。シャッタースピードは1/8秒ですが、強力な手ブレ補正のおかげで手持ち撮影が可能となり、狙い通りの描写が得られています。

X-T5 & XF8-16mmF2.8 R LM WR

巨象の鼻を支える大岩の裏側にある洞穴は、人一人なら入れる空間となっています。X-T5にXF8-16mmF2.8 R LM WRを付け潜り込み、真上を見上げると、頭上の穴から森が見えます。心許ない気持ちを振り払い、手持ち撮影によって写した写真には、異空間の向こうに見える現実がリアルに表現されています。

X-T5 & XF8-16mmF2.8 R LM WR

苔がびっしりと生えた双子の木。その苔のリアルを4020万画素で表現しようと考えて、三脚にカメラを固定しアングルを真上に向け、背面の3軸チルト式モニターを引き起こして撮影しています。苔の繊細な表情が余すとことなく引き出されています。

その一瞬に反応したい

 風景は撮影者のことなどお構いなしに姿を変え続けます。じっと動かないこともあれば、一瞬の間に変貌し撮影者を翻弄する、それが風景です。そのため瞬間の動きに反応できるカメラを相棒にしたいと願うのです。

X-T5 & XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR

動きの速い雲が山上を走り、風景が刻一刻と変化し続けているときは、いかに素早く撮影態勢に入れるかどうかがカギになります。X-T5は従来よりもグリップが深く、しっかりと握り込めるので、手持ち撮影への対応力が向上しており、こういった風景も逃さずに手中に収めることが可能でした。

X-T5 & XF16-80mmF4 R OIS WR

水面ではアメンボが活発に動いています。同時にそこには太陽周辺に出現した彩雲が映り、色と模様が混じり合った風景が展開しています。手持ち撮影の態勢でアメンボの動きを追いながら連写することによって、アメンボが交錯した瞬間に生まれた美しい模様美を捉えることに成功しました。

X-T5 & XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR

太陽が雲と重なり、丸い輪郭が現れた場面。雲は形を変え、しかも動きが速いので、太陽の位置や雲の形を狙い通りの構図で捉えるには、撮影者の素早い動きに俊敏に反応するカメラが必要な場面ですが、手持ち撮影を選択することでしっかりと結果を残せています。

「美しい色彩の世界を表現したい」

 私がXシリーズを使う理由の1つは、フィルムシミュレーションがあること。なかでもVelviaは、朝夕の風景にドラマ性を付与してくれるので、使用頻度は高く頼もしい存在となっています。X-T5で撮影し、背面モニターで確認する映像美は、それがVelviaであってもなくても、心を震わせ、次のシャッターへと気持ちを誘ってくれるのです。

X-T5 & XF16-55mmF2.8 R LM WR

台地には草原のグリーンが広がり、空は下から上に向かってイエロー、オレンジ、ブルーがそれぞれ重なり、色のグラデーションを奏でています。これは決して後からの誇張ではなく、フィルムシミュレーションが生み出したもの。この色に魅せられ、Xシリーズを使っているのです。

X-T5 & XF16-55mmF2.8 R LM WR

峠から見た雲海の上に太陽が顔を出した瞬間です。雲上の空は黄金色に焼け、雲はわずかに青みがかり、手前の斜面には黄葉したイタドリや緑のままの草むらが見えています。色の濃度が高いからこそ感じられる朝だけのドラマがここにあります。

X-T5 & XF16-80mmF4 R OIS WR

日没間際の風景です。雲が活発に動き、風景をダイナミックに見せています。空には雲もありますが、青空も見え、初秋の趣を感じます。手前の草むらには夕日が射し、一日の最後をあたたかな色が包み込んでいます。内容性を語ることができる色作りが、X-T5の真骨頂と言えます。

「細部へ向かう視線」

 40020万画素の解像力があることで、大きな風景だけを撮ることに飽き足りなくなるのがX-T5の魔力と言えます。大きな風景はどれだけ引き伸ばしたプリントを作っても、それ自体を超えることはありませんが、足元の小さな風景は、場合によっては現実を超えるサイズでの鑑賞が可能です。これは以前から言われていることですが、X-T5を手にすると、それを試みたくなるのです。少なくとも私はそうです。

X-T5 & XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro

蜘蛛の巣が雫をまとって美しい姿を誇っています。あたりにはマユミの赤い実もあり、それをボケのポイントとして作画。ピントは蜘蛛の巣の中心部として撮影しました。拡大して確認すると、雫の美しさもさることながら、蜘蛛の巣の主もリアルな姿を見せていてビックリ! 

X-T5 & XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro

ふと視線を向けた先に見つけたキノコの群生。朽ちた木に大家族が集合しているかのような様が面白くて、レンズを向けることにしました。撮れそうでいて、なかなか表現が難しい被写体ですが、背景の明るいボケの中にひと家族を収めて、なんとか形にした一枚です。

X-T5 & XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR

コオニユリの蕾の天辺にトンボが一頭止まっていました。かなり遠い先の被写体でしたが、超望遠ズームを使うことで、トンボの細密描写ができないかと考え構図を作ったところ、ふいにもう一頭のトンボが画面を横切りました。その瞬間にシャッターを切ることができ、偶然にも撮影できた一枚です。

X-T5 & XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR

池の畔で見つけた小さな風景。カーブを描いた葉の上に、雨が残した雫がのり、弱い逆光によって艶めいている瞬間です。この場面ではフィルムシミュレーションは「クラシックネガ」を選び、あえて色の情報は抑えることによって、雫の存在感を引き出そうと試みています。細部へ向かう意識が、この写真を撮らせてくれたのだと思っています。

「風景写真との親和性」

 フィールドでは、極端に言えば1グラムでも軽いほうがいい。それでいてしっかりとした手応えのある扱いやすさは必須。加えて細部をえぐる解像力が備わっていてほしい。さらに好みに応じて色を使い分けることができれば…。

 理想は留まるところを知りませんが、これらを兼ね備えたX-T5は、風景写真を撮る道具としての性能は十分に高いものがあります。とくに、ここへきて思い切った高画素化を実現したX-T5に寄せる期待は、弥が上にも高く、今後の創作活動にどのように影響してくるのか、楽しみの1つになっています。

X-T5 & XF16-55mmF2.8 R LM WR

豪雨の中での撮影ですが、言うまでもなく、防塵・防滴性能に優れたボディとレンズの組み合わせを使っていれば、よい結果になることはわかりきっているのですから、あとは人が我慢するだけのこと。

X-T5 & XF10-24mmF4 R OIS WR

山の端に沈む太陽が水面にも現れた瞬間。ハーフNDフィルターを使い、タイミングを計り、撮影位置の微調整も行うなどして、慌てながらの撮影。かなり難しい場面でしたが、X-T5はその瞬間を狙い通りに写し止めています。

カメラを携えて野山に分け入ることの楽しさは格別です。それが、心からの信頼を寄せるカメラであれば、尚のことです。X-T5というカメラは、従来の殻を破り圧倒的な解像力を身に付け、なおかつ素早く柔軟な撮影に対応できる性能を備えて、私たちの前に登場してくれました。このカメラによって撮影者がどこへ導かれるのか、このカメラが描く世界がいったいどこまで広がるのか、楽しみでなりません。