2022.06.10 Tadateru Takahashi

X-H2S: 高橋忠照 x 野生動物

髙橋 忠照

1982年北海道札幌市生まれ・山形県育ち。上富良野町在住。陸上自衛隊勤務を経て、2019年自然写真家に転身。自衛隊時代に培ったスナイパー(狙撃手)の技能を生かし、自然の中に同化して野生動物を探し出す独自のスタイルでの撮影を得意とする。作品は小学館、チャイルド本社、フレーベル館等の児童書や雑誌、カレンダーなど掲載多数。富士フイルムアカデミーX講師。

「X-H2S」が切り開く野生動物写真の新たな可能性

野生動物を撮影する上で、私がカメラに期待する性能はとてもシビアです。 野生動物の痕跡や行動パターンを解明し、個体識別をして個々の性格を把握。そして山岳地帯や原野の奥地をスキーや徒歩で隠密に移動して撮影するのが私のスタイルです。 野生動物の鼓動や息づかいまでも一体となり表現することができるカメラとの出会いをずっと待ち焦がれていました。 そしてついに、野生動物写真家の生き様そのものを表現できる「X-H2S」に巡り合うことが出来ました。

X-H2S&XF16-80mmF4 R OIS WR

X-H2Sで近距離撮影したキタキツネ
写真に捉えた瞳の中を走る血管さえもX-H2Sは鼓動させる。

X-H2S&XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR

昨今のミラーレス一眼レフカメラには標準装備となりつつある被写体検出AFがいよいよX-H2Sにも装備されました。

昨年より、現場で実際に起こり得る様々な条件でのAF実証テストを富士フイルムと協力し実施してきました。
テスト撮影では、機敏な動きをするシマエナガなどの小鳥、高速で飛翔するハヤブサ、不規則な動きをするエゾリス、時速約80kmで駆け抜けるエゾユキウサギ、果ては秒速約16mで滑空するエゾモモンガに至るまで多種多様な野生動物を追いかけました。
また、多種多様な野生動物の直進・横行・斜行といった被写体と撮影距離が不規則に変化する状況や、降雪・枝被りなどシビアな撮影条件で何度も性能を評価しました。
そして、ついに完成したのがX-H2Sに搭載された被写体検出AFです。

X-H2S&XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR

激しい降雪などの厳しい気象条件でも雪にピントを奪われることなく、雪の中を舞うオジロワシをシャープに捕捉し続けてくれた。

 X-H2S&XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR

オオワシの獲物に迫る迫力のシーンも被写体検出AFを用いることにより、構図に集中して撮影することが可能となった。

X-H2S&XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR

エゾリスが走りながら接近する俊敏で不規則なシーンでも、X-H2Sの動体予測アルゴリズムがワンランク上のアドバンテージをユーザーに提供してくれる。

「理想の一瞬を確実に捕捉せよ」秒間40コマの威力

従来、私が撮影に使用していたX-T4は通常メカシャッターで秒間15コマ(電子シャッターでは秒間20コマ)連写できるカメラでした。

当然のことですが、野生動物はじっとしている機会が少なく、佇んでいても瞬きをしたり首を振ったりするため、思い描いていた構図で撮影できるタイミングは意外と少ないものです。

秒間15コマでは、思い描いたシーンを撮影するのにとても苦労しました。

この悩みを解決してくれたのが、X-H2Sに搭載された秒間40コマ連写です。
ここぞ!というシーンでの秒間40コマ連写は求めていた一瞬や自分の理想とする飛翔ポーズを確実なものとしてくれます。

X-H2S&XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR

時速約80kmで駆け抜けるエゾユキウサギに対する秒間40コマ連写の合成写真。僅か1秒間でこれだけ不規則に移動するエゾユキウサギにも圧倒的な追従性能と動体予測で終始フォーカスを継続してくれました。

あとは、自分の理想とするポーズやフォルムをこのカットの中から選ぶのみ。難しいことは全てX-H2Sが実行してくれます。撮影者は被写体のフレームアウトに注意しながらシャッターを押し続けるだけでいいのです。

X-H2S&XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR

エゾシカの瞳に雪被りしてしまうような大雪のシーンでは迷わず秒間40コマを選択した。そして構図を決め約1~2秒連写するだけで全てが解決。

X-H2S&XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR

秒間40コマで降雪を撮影した写真を確認すると、降りしきる雪が数ミリ単位で落ちていくのが見てとれる。貴重なクマタカと雪絡みの撮影は、瞳の雪被りなどで失敗が許されない一発勝負となるが、秒間40コマを選択することにより、僅か数秒の連写で失敗を回避することが容易となった。

野生動物の不規則な動きに「即対応」7カスタム記憶可能なコマンドダイヤル

従来のX-T4では、野生動物の「動く」・「飛ぶ」・「止まる」といった動作に対して、撮影に至るまでの結節が多く、シャッターチャンスを逃がすことも少なくありませんでした。
しかし、X-H2Sに採用されたコマンドダイヤルでは、最大7種類ものカメラ設定を任意で記憶させることができます。
これにより、動物の不規則な動きに合わせ、シャッターを切り始めるまでの時間を大幅に短縮することができました。

X-H2S&XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR

動体に特化した設定で待機中に、突然エゾモモンガが巣穴から現れた。このタイミングで速やかに、コマンドダイヤルを静止に特化した設定に変更し撮影。

X-H2S&XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR

正面から高速で進入するオジロワシ。X-H2Sの動体予測性能の進化が問われる重要な場面。

通常の動体設定から、より強力な動体設定に変更。撮影中でも操作ひとつで設定を変更できる機能は野生動物撮影では本当に有難い。

CFexpress採用で実現するノンストレスの高速処理

野生動物の撮影では連写するシーンも数多く存在します。X-H2SはCFexpress Type BとSDカードのダブルスロットルを採用したことで、設定によっては記録メディアの容量分の無限とも言える連写が可能となりました。

また、撮影後の膨大な写真データをパソコン等に取り込む際も、CFexpressのおかげで大幅に時間が軽減されノンストレスで画像処理に取り掛かれるようになりました。

X-H2S&XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR

エゾリス等の俊敏な小動物の撮影が続くと、それだけ膨大な量の写真データが蓄積することになります。X-H2Sの秒間40コマ連写も相まって、CFexpressを採用した意義は大きいでしょう。

待望の「XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR」で撮る異次元の描画力

私はフジノンレンズに絶大な信頼を寄せています。レンズを通して表現される野生動物の表情は、色彩豊かな「記憶色」で彩られ、細部のディテールまでシャープに美しく描画してくれるからです。

そのラインナップに今回新たに加わったのが、「XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR」。使用した第一印象は超望遠レンズにもかかわらず小型・軽量であったことです。
そして更に驚いたことに、テレ端で撮影した遠距離の野生動物を拡大して見てもとてもシャープでクリアに描画されています。これには撮影直後のカメラモニターの画を見て思わず声を上げてしまいました。

X-H2S&XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR

テレ端で撮影した遠距離で佇むエゾシカ
この距離でも美しくシャープで異次元の描画力に圧倒された。

X-H2S&XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR

暗いレンズに負い目を感じることは一切ない。複数の野生動物を撮影するようなシーンでは深い被写界深度は滑らかな遠近感を与えてくれる

X-H2S&XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR

2羽のオオワシの瞳を絞り込み同時にフォーカス。絞りの偏差量の修正は明るいレンズより暗いレンズの方が少なくて済みます。修正が少ないということは、それだけ速く撮影できるということです。

一瞬を逃がせない野生動物の撮影で迅速に撮影できるということは強力なアドバンテージでしょう。

Xマウント10年の節目にふさわしい至高の機材

「X-H2S」と「XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR」は野生動物を撮影する上で最もバランスのとれた理想的な組み合わせだと、撮影を通じて実感しました。

富士フイルムがミラーレス一眼カメラを手掛けてから10年の節目を迎える本年に素晴らしい機材が誕生したことを大変嬉しく思います。

誰でも簡単に、そしてシャープで美しく鮮やかな野生動物写真が撮影できる時代が幕を開けました。