2017.08.07 Toshimitsu Takahashi

高橋俊充:X100Fと歩く旅

Toshimitsu Takahashi

1963年、石川県小松市生まれ。デザインプロダクション勤務を経て、1994年、高橋俊充デザイン室 設立。 アートディレクター、フォトグラファーとしての活動の傍ら、日々ドキュメンタリーを主体とする写真創作に取り組む。

【受賞歴】JAGDA年鑑・入選、日本APAアワード・入選、金沢ADC・会員特別賞受賞、金沢ADC・準グランプリ受賞、ほか多数。【作品展】1983年「FACE」、1985年「WHAT’S GOING ON.」、1993年「異人伝心」、2011年「SNAPS Italia」金沢・東京、2014年「SNAPS Sicilia」神奈川、2018年「SNAPS ITALIA」表参道、代官山。ほか出展多数。【写真集】2014年「Sicilia Snaps 2013」、2018年「SNAPS ITALIA 2010-2017」

旅先でのフォトドキュメンタリー。その街の生活、行き交う人々、空気、光と影…。なんの演出がなくとも、そこには日常というすばらしいドラマがある。
旅のストリートショットは、その地に生まれ住んでいないから、目に飛び込んでくるものがすべて新鮮だ。初めて訪れるから、見慣れていては気付かないすばらしい光景を見つけることも出来る。

2017年の春。5度目となるイタリア。今回はナポリから入り南イタリア、プーリア州を選んだ。旅のストリー トショットにはさり気ないカメラに限る。X100Fとテレコン、ワイコンの 2本のコンバージョンレンズは、35mm判換で28mm、35mm、50mmの画角を持つことになり絞り開放値はF2。ストリートスナップにはこれ以上必要ないと思う。手で覆い隠せるような小さなボディは撮られるものに抵抗感を与えず、いつもの日常をカメラにおさめる事が出来る。
出掛けるときには画角は一本に決め、今日は35mm、28mm…といった感じで出先でレンズ交換はしない。そうすれば被写体との向き合い方にも迷いが無い。フレーミングなどに惑わされることなく、撮りたい絵もストレートに表現できる。

スピード感溢れるナポリの街は、コンバージョンレンズ無しの35mmを選んだ。フォーカスはゾーン AF。ファインダーを覗きフォーカスレバーを使いながら切り撮っていく。ナポリのスピードに遅れることなく撮り歩く事が出来た。

混沌のナポリから離れ、眩しい陽射しが降りそそぐプーリア州の街々を渡り歩いた。 抜けるような青空に強い陽射し。絞りを開けば露出は常にオーバーになる。そのハイキーなトーンで切り撮ると、その地の空気まで写し出されているようだ。眩しい光に色も霞んで見える。

写真プリントの持つ力

そしてこの旅に欠かせなかったのがinstax SHAREだった。私の考える写真家の役目として、写真で人を幸せにしないと行けないと思う。やや言い方が大げさだが、ドキュメンタリーとして日常を捉え、自分の作品として発表しているわけだが、それだけで終わってはいけない。出来ることなら、またその地に訪れ本人にその写真を渡したいと思っている。写真家の作品に自分が写っているのなら欲しい。やはり写真はその人に渡してこその価値もあると思う。 しかし、海外ともなればまた訪れて渡すなんて言うのはそう簡単な話ではない。今ならメールなどで送るっていう事も可能だがそれも風情がない。
今回の旅は、撮った写真をinstax SHAREでプリントし、行く先々で渡して歩いた。本来ならちゃんとプリントして渡したいところではあるが、旅先での撮った瞬間のinstaxプリントはそれはそれで特別なものだと思う。

カメラに気づき笑顔をくれた人にはもちろんだが、スナップショットとして日常ショーンを切り撮った写真 を、本人に渡す事もあった。そういった時には、まだ画が浮かび上がってないプリントに一瞬「??」と言う表情なのだが、徐々に現れてくる写真に「Wow!」という表情になる。そのサプライズに行く先々で一気に場が和んだ。「Bravo! Grazie!」の言葉が、こちらも嬉しい気持ちになる。

オストゥーニに訪れた際に入ったオステリア。若いスタッフがイタリア語のよく分からない私に熱心に料理の説 明をしてくれた。カメラを向けるとキリッとポーズを取ってくれた。

ナポリのTABACCHIで出会った店主。夕暮れ時の店先で愛犬との写真を撮らせてくれた。あとでプリントを渡そうと立ち寄ったときには店は閉まっていて結局渡せず仕舞いだった。何かその写真がお気に入りの一枚にもなっている。

プロチダの漁村では網繕いをする漁師に出会った。プリントを渡すと「なんだこの兄さん、変わったものくれたな」と言う感じで、照れくさいのか、特によろこんだ表情はなかった。しかし、別れて振り返ると、その徐々に浮かび上がってくる写真をじっと見つめている様子になにかこちらの心も温まった。すぐに画が浮き上がってこないのがじれったいところでもあるが、そこがまたいい演出になっているのがinstaxの良さかも知れない。

写真という文化

写真がデジタルとなってモニタで見て終わってしまうことが多くなっている。 しかし、写真は飾ったり、手にとったりするものであって欲しい。プリントの風合いや質感も作品の一部である。 ここ7年間に5回に渡り訪れたイタリア。近いうちに写真展という形で発表したいと思っている。合わせてデザイン、印刷にこだわった写真集も出したい。 そして、いつかその写真集を持ってもう一度このイタリアの地を訪れたい。