X-S10 インプレッション
みんな誰しも、かけがえの無い大切な物や宝物がある。
その形は人それぞれで無限大。
小学生の頃、父は私にこう言ったのを思い出した。
「お金で買えないモノって、なんだと思う?」
「…命?」
「命もそうだけど、答えは“写真”だよ。今目の前にあるモノを、今撮らないとそれはもういくらお金を出しても買えないんだよ。だからお父さんは毎日お家で写真を撮るんだ。」
父のベルトポーチの中にはいつだってカメラが入っている。家族で遊びに出かける時はもちろん、家のリビングやファミレスの中でさえ、いつでも私達家族の写真を撮っていた。これは私が生まれてからずっとそうであり、日常のひとコマを毎日毎日撮られるのは当たり前の習慣となっていた。
思い返してみるとこの『当たり前』が、私の写真に対する想いそのものであり、今、私の目の前にその『当たり前』の形として現れたのがまさにX-S10だと実感した。
まず手に持った瞬間に驚いたのは、そのコンパクトさ。決して大きくはない私の手のひらの上でさえ収まってしまうほどだ。操作ボタンの数や配置も絶妙で、“必要なだけ必要な場所に”あるのだと、操作してみて分かった。それが故、見た目もスッキリとしていて外に持ち出すときも服装にスッと馴染む。存在はそれほど主張しないが、その分『当たり前』のようにあらゆるタイプの撮影者に寄り添ってくれるカメラだと確信した。
―今あるモノを、素直に美しく。―
私がシャッターを押すときに頭にあるのはこのフレーズ。
ストリートスナップやモデル撮影をする際にもこれを心がけている。
素直に撮るためには、やはり撮り手の“もたつき”は出来るだけ排除したい。
手際の悪い設定変更や、時間のかかる構図の決定はシャッターチャンスを逃す要因になる。
ところがこのX-S10には、全くと言って良いほどその心配や不安を感じることがなかった。
ボディのコンパクトさやグリップの握りやすさに加え、ボディ内手ブレ補正機能とバリアングルのモニターが大きな役割を果たしていると私は思う。
素直な美しさのある作品をつくる上で、私がさらに重要視しているのは『色』である。
私が初めてFUJIFILMのカメラを購入した決め手は、まさにこのFUJIFILMのカメラが作り出す『色』に一目惚れしたからだった。
優しくて、どこか素朴な面がありつつもとても印象的。美しい発色は変に作り込まれた感じではなく、なんの違和感もなく素直に心に入ってくる。フィルムシミュレーションを駆使することで様々な色表現が可能になり、その時シャッターを押した気持ちや、表現したい事をより深く伝えることができる。
限りなく不自由さが排除されたこのカメラは、最早手放したくはない。というよりも『当たり前』に私の傍にずっと置いておきたいカメラである。
一度逃したら二度と手に入らない、今そこにある瞬間を切り取って永遠の存在にするために。