私は、「自分が誰なのか」そして「何をする写真家なのか」という問いに明確な答えを持った写真家を羨ましく思う。私の仕事は、何らかの理由で年が変わるごとに絶えず変化し、「これ！」と言い切れる答えがないまま今日に至る。今では「脱線」を受け入れ日々を過ごしている。変化には良い面もあり、ありとあらゆる写真ジャンルを探索できる。悩ましいのは、ポートフォリオにまとまりがないことだ。私の撮る写真ジャンルは何だろう。ポートレート？コマーシャル？インテリア？ストリート？それとも、プライベートで個人的な作品集なのだろうか？私がどういった写真家なのか定義できる作品は何なのだろう？正直に言うと、私も未だその答えが分からない。でも、それが真意なのかもしれない。全てを受け入れ、これまで撮ってきた全作品が私にとって大切なのだと。
そして、気に入った作品を絞り込むのはとても難しい。好きな５枚、１０枚、または１００枚を選ぶのは簡単だが、それでも何かが違うと感じてしまう。だからここで紹介する写真は、仕事で撮った私が誇りに思う作品だ。私生活で撮った写真から選ぶのはパンドラの箱を開けるようなもの。これらの仕事で撮った写真は、私が前進していると感じる作品である。
バンド「Miriodor」
次の２枚の写真は、GFX 50Sを初めて仕事で使ったときのもの。購入してまだ１週間しか経っていないころだ。カメラをRAW+Super Fineに設定して、フィルムシミュレーションはエッジが効くようにカスタマイズしたACROSに設定。ストロボを小さなソフトボックスの中に入れて数枚試し撮りしたときの興奮を今でも覚えている。背面モニターに映し出されたイメージは決してパーフェクトと言える写真ではなかったが、そのイメージが醸し出すムードだったり、ギタリストが顔を少し上に上げてタバコの煙を吐き出す描写がたまらなく良かったのだ。偉大な写真家アントン・コービンを彷彿とさせるイメージだった・・・もちろん彼の作品を自分のと比べるなんてことは決してしないが・・・でも、そういった私的な参考イメージが写真の構図をいい方向へ導いてくれることもある。２枚目の写真は鏡を使って撮影。使用したライトは一本だけだ。
GFX 50S & GF63mmF2.8 R WR
GFX 50S & GF63mmF2.8 R WR
スケッチからフレーム
これは、DentsuBosとカナダ・レクサスの仕事で撮った最後の写真だ。仕上がりにとても満足している。これは、私が手描きのスケッチを起こして、アートディレクターに提案して実現した写真なんだ。三脚の上にカメラを固定して、２台の車をイメージ通りに配置。構図が決まったら、３台目の車がフレームを横切るんだ。もちろん、適切な速度（車とシャッター）を見出すために何回か撮り直した。でも、下準備のほうが実際の撮影よりもっと大変だった。すべての準備が整ったら後はシャッターを切るだけだったから。
GFX 50S & GF63mmF2.8 R WR
ストックホルムの会議室にて
プロフォトの新製品発表のためストックホルムを訪れていた。最終日は、プロフォト本社のツアーが組まれていた。この写真はツアーが始まる前にあった説明会で撮った一枚。ネオンライトが照らされた不思議な空間だった。露出をアンダーにすることで、壁にかけられたモディファイアのシャドーが強調され、その場にいたツアーメンバーがフレームに溶け込み、ドラマチックで面白い写真に仕上がった。写真の面白いところは、ちょっとした工夫で現実を捻じ曲げることができること。この写真でも、カスタマイズされたACROSフィルム・シミュレーションを使っている。なので、電子ビューファインダーにはコントラストが効いたイメージが映し出されていた。その場の状況をしっかりと確認した上でシャッターを切った一枚だ。
X-Pro2 & XF35mmF2 R WR
拡散
最後の写真。これは、私が主宰する写真家集団「KAGE Collective」用に書いたフォト・エッセイの一枚だ。とてもダークでアンビエントなイメージを想像しながらこのプロジェクトに取り組んでいた。抽象的で分解された作品が多かったのだが、この写真は、そのなかでも一番踏み込んだ一枚だ。ペインターが描いたような描写をイメージして、ストロボ一本を用いて寝室で撮影した。
GFX 50S & GF63mmF2.8 R WR
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