2020.09.03 Yukio Uchida

PEAK: 内田ユキオ x XF50mmF1.0 R WR

Yukio Uchida

新潟県両津市(現在の佐渡市)出身。公務員を経てフリーに。タレントなどの撮影のかたわら、モノクロでのスナップに定評があり、ニコンサロン、富士フォトサロンなどで個展を開催。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。現在は、写真教室の講師も務める。自称、「最後の文系写真家」。
主な著書:『ライカとモノクロの日々』『いつもカメラが』『THE FinePix X100 BOOK』

XF50mmF1.0 R WRインプレッション

明るいレンズをハイスピードレンズと呼ぶのは、それによって光を多く取り込み、シャッタースピードが早くできることが大きな恩恵だった時代の名残だろう。現在では飛躍的に向上してゆく感度のほうが影響が大きい。そこで明るいレンズには二つの重要な役割が残された。大きなボケと、浅い被写界深度。

ポートレート、イルミネーション、ネイチャーのように、ボケを審美的に———つまりはボケそのものの美しさを楽しみ、主役に引けを取らない脇役として使うジャンルだけでなく、ストリートスナップでもボケは主題を引き立ててくれる。写真に華を加えることもできる。

このレンズのように、大きいだけでなく美しいボケを持っているなら、それは切り札と言っていい。背景を整理する余裕がないとき、どうしても角度が変えられないとき、ボケが写真を救ってくれる。写真に奥行きを与え、立体感をもたらす。

浅い被写界深度は、それを際立てる役割を果たす。5メートルから10メートルくらいまで離れていれば、ふつうなら背景と馴染んでしまうため、色彩や濃度によって分離させる必要があり、絵作りに制約が生まれる。ストリートフォトグラファーのジレンマと呼んでいい。背景も入れたい、でも主題は強くしたい。

ところがF1.0ともなると、離れていてもピント部分がキリッと浮き立つ。「ここを見て!」と指し示すように、写真が訴えかけてくる。しかもそこでAFが使えるのだ。顔認識、動体追従だって動く。おかげで構図とシャッターチャンスに集中できる。

これは世界の見え方を変えてしまうレンズだと思う。ロラン・バルトがプンクトゥムと呼んだ、心を刺すような鋭さが、柔らかいボケのなかに生まれる。こんなに離れているのに、心をギュッと掴んでしまうのだ。