2021.02.12 Yoshihiro Tatsuki

GFX100S: "More than Full Frame" x 立木義浩

立木 義浩

1937年徳島県生まれ。1958年広告制作会社アドセンター設立時にカメラマンとして参加。1969年、フリーランスに転身。女性写真の分野を中心に、多く著名人を撮影。同時に世界中でスナップ写真を日常的に撮り続け、多くの作品を世に送り出す。1965年に第9回日本写真批評家協会新人賞、写真集に『マイアメリカ』『東寺』など、2012年『Tōkyōtō』、2016年『動機なき写真just because』、2018年『舌出し天使』、2019年『20C』、2020年『Afternoon Paris』他多数。

GFX100Sインプレッション

約20年前、東寺を撮影した。当時の機材は仕事でよく使っていた6×8のフィルムカメラだった。仏像を撮影するにあたっては8×10で撮るか、4×5で撮るか、色々と考えてしまうが、限られた時間の中での撮影となることもあり、少し細長いアスペクト比の6×8であれば横位置でも縦位置でも対応できるのではないか、と考えての選択だった。

GFX100S & GF100-200mmF5.6 R LM OIS WR

今回の撮影ではデジタルカメラ GFX100Sを選択した。聞くところによると、なんと1億画素だという。現在デジタルカメラの世界では「高画素といえば5000万画素」というのが一つの指標になってきていると思う。それが1億となると一体どのような表現が生まれるのか。1億画素で撮影された作品を見た人々はどのように感じるのか、それに非常に興味があった。デジタルカメラの世界においては「フルサイズ」はメジャーな規格となっているが、所謂「中判」サイズのカメラはあまり多くない。フォーマットが大きいということが、写真に与える影響は何かを知りたいし、プリントの大小による見え方の違いも体験したいことの一つだ。

GFX100S & GF100-200mmF5.6 R LM OIS WR

GFX100S & GF32-64mmF4 R LM WR

GFX100Sの第一印象は「小さい」だ。従来のGFX100と比べてもより手に馴染む、驚異的なサイズ感。どうやったってレンズは重くなるが、GF50mmなどの単焦点であれば普段のスナップ撮影にもOKかなという印象もある。「1億画素でのスナップ撮影」はまだあまり一般的ではないが、今後これが普及していくと非常に面白いだろう。

重いGFレンズだが、その写りに関しては6×8のフィルム時代から定評があり、自身も体験してきている。フジノンは広告にアーヴィング・ペンやリチャード・アヴェノンを起用するなど、クオリティに煩い巨匠たちが一目置いていた。

GFX100S & GF250mmF4 R LM OIS WR + XF1.4X TC WR

プロ写真家にとって写真の最終形態は印刷物であることが多い。昔は「線数」がいくつかで高精細かどうかが分かったものだ。そして、印刷の画質を高画質にすればするほどディテールは上がるが、テーマとの調和が肝要である。20年前に自費で作った東寺の写真集も印刷技法にこだわり、まるで写真のような仕上がりを求めた。デジタルカメラの画素数が多くなるってことは、そういう体験が一般の人にも簡単に出来るようになるということだと思う。然るべき大きさのプリントを反射光で見る味わいは捨て難い力がある。それは素晴らしいことだし、写真家としても歓迎だ。

GFX100S & GF100-200mmF5.6 R LM OIS WR

GFX100Sはピクセルシフトによって最大4億画素での撮影が可能だ。でも4億画素ともなると、ブレを防ぐしっかりした「土台」が必要になる。ライティングやフレーミングなどがちゃんと出来てこそ超高画質が生きてくる。高画素だからと言ってそれだけでいい写真が撮れるわけじゃない。そこを間違ってはいけない。

1億や4億という数字はまだ決して一般的ではないが、将来のために必要なのかもしれない。8Kテレビなんて殆ど誰も持っていないのにT V局によってはとりあえず8Kを試している。そういう意味でGFX100Sは「魁」として魅力あるカメラだ。

GFX100S & GF23mmF4 R LM WR

ミラーレスカメラの登場でカメラはより身近な存在になり、さらにスマートフォンのカメラの進化によって、写真の原理を勉強しなくても写真を撮れる人が増えた。大勢の人に写真の魅力を手渡したということは意義深く、とても面白いが、写真のフィニッシュはモニターではなくプリントだと言いたい。

機材が新しくなることで「何か今までと違う写真が撮れるのではないか」という期待感は膨らむ。撮影に応じて様々な機材を試す方だが、カメラが変わるとやはり写真は変わる。ちょっとだけど。大きく変革するには知らないうちに縛られている常識や固定観念を取り払えるかどうか。これが難しいね。

GFX100S & GF120mmF4 R LM OIS WR Macro

GFX100S & GF32-64mmF4 R LM WR

これからの写真について「どうあるべき」という正解はない。本来、写真表現は自由でダイバーシティそのものだ。性で何かを決める時代でもなく、ただ「写真を撮る人」としてみんなが一線上に並んでいるのだ。質の異なる多様なジャンル、テーマがある中で、それをちゃんと許容するというところにやっと辿り着いてきた。

写真の戦国時代。新しいカメラが出てくれば食指は動く。「今までで一番好きな作品は?」と聞かれて多くの人が「明日撮るやつです」と答えるように、GFX100Sには期待をしている。