2017.06.06 Andrew Hall

Xシリーズとの最初の5年

Andrew Hall

25年以上にわたるプロ活動の中で、モータースポーツや風景、ポートレート撮影など幅広いジャンルで多数の受賞歴を持つ写真家。オーストラリア・シドニーに拠点を構え、写真への情熱を追い求めて世界を旅している。最新の技術も積極的に採り入れながら、未だかつて見たことのないシチュエーションを写真に捉えることを常に目指している。

ゲームチェンジャー

時は2011年。毎年恒例となったル・マン24時間レースの撮影が迫っていた頃だった。ル・マンへ行く前に私は、必ずパリに寄り道をして、パリの街、人々を撮影する。スナップ撮影が好きな私にとって、これが毎年の楽しみだった。だが、いかついデジタル一眼レフを持ち歩くのに、うんざりしていたのも事実だった。私の情熱を刺激してくれる代わりとなるカメラを探していた。それが、X100だ。
レトロな風貌ながら、中には最先端の技術がぎっしりと積み込まれている。23mm(35mm相当)のF2.0単焦点レンズの描写は素晴らしく、造りもしっかりしている。フィルムシミュレーションは、銀塩時代を彷彿とさせた。瞬く間に、惚れ込んでしまったよ!
パリの街を3日間散策した。憧れの写真家であるアンリ・カルティエ=ブレッソンが歩いた道を歩き、写真を純粋な形で楽しんだ。暗闇での撮影性能には驚かされ、単焦点での撮影は楽しい。X100は、ゲームチェンジャーだった。私にとって会心のヒット。旅のカメラは、この1台で全て事足りる・・・、とその当時は思っていた!富士フイルムが、水面下で進めていたこれからの展望を知る由もなく・・・・。

革命と進化

富士フイルムは、2012年初頭にX-Pro1を発表した。私は、フランスへと旅立つ6月も直前に、X-Pro1を入手した。それと、X-Pro1用に、その当時あった3本のレンズ(18mm、35mm、60mm)も揃えた。X100に搭載されたハイブリッドビューファインダーは、革命だった。そして、それはX-Pro1でさらなる進化を遂げていた。
従来の光学ファインダーをもう必要としなかった。ハイブリッドビューファインダーでは、フィルムシミュレーションの効果が、リアルタイムで確認できる。X-Pro1は、とてもパワフルだ。ライティング条件に関係なく、高画質なイメージを常に創り出してくれた。
高画素化された1600万画素のX-Trans CMOSセンサーと進化したプロセッサーは、更なる高性能と汎用性をもたらし、レンズ交換が可能になったことで、X-Pro1は、ピットレーンやドライバーの撮影、そしてスナップ撮影にも欠かせないオプションとなった。
定期的に更新されるファームウエアで、カメラやレンズの性能は向上した。特にAF精度は、飛躍的に改善した。富士フイルムとXシリーズ。それは、常に進化を遂げている。
2012年と2013年の2年間、X-Pro1は私の旅の友となり、素晴らしい画質と色再現で、私の冒険の記録をしてくれ、クライアントも満足するイメージを仕上げてくれた。
富士フイルムのカメラは、頼もしい。今まで所有したXシリーズの全カメラは、様々な環境の下使われてきた。炎天下や土砂降りの雨、雪などといった環境でも期待を裏切られたことはない。一度たりとも。
X-Pro1との2年間は、素晴らしかった。ファームウエアアップデートで改善されたAF性能で、レーストラックでの撮影にもどんどんと使えるようになっていった。未だ、現役のカメラだ。

突き進む

スポーツを撮る写真家として、デジタル一眼レフもまだ手放せないでいた。しかし、2014年に発表されたX-T1の登場で状況は変わった。高性能なズームレンズ、圧倒的なEVF、そして防塵・防滴ボディ。不足していたコマがすべて埋まった瞬間だ。
すぐさま、2台のX-T1を私のXシステムに取り込んだ。その時には、すでにX100もX100Sに切り替えていた。
X-T1は、革命だ。X-Pro1のレンジファインダースタイルからもっとSLRスタイルへとシフトしていった。両方とも使っていて楽しい。どちらを使うかは、その時の気分と被写体次第だ。
富士フイルムが、現場の声に耳を傾ける事例を紹介しよう。X-T1のAF性能は、スポーツ撮影ではまだ不十分であることを富士フイルムは認識していて、すぐさま改善しなければならないことを理解していた。
2015年6月、新たなファームウエアが公開されX-T1は、全く別のカメラへと生まれ変わる。トラッキングシステムが抜本的に見直され、モータースポーツでもレース中の車を撮影することも可能となった。そして、新たに発表されたレンズで、撮影領域がさらに広がり、X-T1でのスポーツ撮影の可能性を示してくれた。

チームでの取り組み

富士フイルムは、Xユーザの意見に関心を抱いている。システムとしてどのように成長して欲しいか、システムの好きなところ、いまいちなところ、新製品や今後追加を希望する製品などなど。ただ、意見を聞くだけでなく、意見を踏まえたうえで行動へと移す会社だ。
昨年の10月、東京で開催されたフォトグラファー達の会合に出席する機会に恵まれた。その時出席した写真家たちは、全員モータースポーツの分野で活躍しているメンバーだった。AFシステムを改善することが、富士フイルムにとって重要であることは明らかだった。その会合が開催された翌日、新しいレンズとファームウエアをレース会場で試すことになった。練習走行が終わるたびに、富士フイルムの開発者たちに囲まれ、新しいハードウエアの性能について質問される。そして、そこで明らかになった課題を洗い出し、調整が施された。その数か月後、バーレーンでそのハードウエアを再度試す機会があった。圧倒的に良くなっていた。メーカーと写真家が、こんなに密にダイレクトな関係を持つなんて、今まで経験もしたことがない。そして、これこそが、富士フイルムのXユーザーである最大の理由だ!

未来はここにある

Xシリーズは、私の欠かせない一部分となった。目の延長であり、数年前までは創りだせなかったイメージを創りだす相棒である。魂がこもったカメラで、30年近くのキャリアを持つ私に対しても新しい写真表現への挑戦を刺激する。各モデルには、それぞれ個性、癖、強みがある。Xシリーズの誕生から、効率的で、拡張性があり、頼りになるシステムへと成熟していく過程を楽しんできた。
2016年は、待望のX-Pro2とX70の発表と共にエキサイティングなスタートを切った。それは、富士フイルムの姿勢を示すものだ。Xシリーズの真髄とその価値を維持しつつ、技術の進化をリードする姿勢だ。
これからの5年はどのようになるだろう?10年後は?それは、私にはわからないが、この冒険が楽しみでならない。