2012.11.21 Yukio Uchida

内田ユキオによるEF-X20 Flashのレビュー

Yukio Uchida

新潟県両津市(現在の佐渡市)出身。公務員を経てフリーに。タレントなどの撮影のかたわら、モノクロでのスナップに定評があり、ニコンサロン、富士フォトサロンなどで個展を開催。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。現在は、写真教室の講師も務める。自称、「最後の文系写真家」。
主な著書:『ライカとモノクロの日々』『いつもカメラが』『THE FinePix X100 BOOK』

1. 力強い人工光としてのフラッシュ
2. より自然な写真表現のためのフラッシュ
3. アーティスティックな作品へと高めるフラッシュ
4. スレーブ機能で光を操るフラッシュ

1. 力強い人工光としてのフラッシュ

「どれだけデジタルカメラの高感度性能が上がっても、フラッシュでなければ演出できない世界がある」 ――圧倒的に鋭い光。そして、その光を完全にコントロールできる。これはフラッシュの最大の特徴だ。動画には絶対にできない世界。「写真の最後の領域」である。
人生の1/3は夜。フラッシュを使うと、撮影領域も作品の幅もグンと広がる。カメラと一体化したデザインとクオリティのXらしい「EF- X20」を手にし、X-Pro1にクリップオンして撮影を始めた。EF-X20は、富士フイルム独自のフラッシュ発光制御技術(iフラッシュ)を搭載して いるので、オートでも、被写体に合わせた微妙な発光をしてくれる。微発光できるフラッシュこそ、いいフラッシュだ。

鋭く放たれるフラッシュの一瞬の光は、被写体のエッジを際立たせ、ドキッとした印象を与えられる。鮮烈、生々しいと言ったらいいだろうか。
クリップオンフラッシュはレンズの光軸に近いので、ともすると、フラッシュが強く当たり過ぎた写真になってしまうが、EF-X20には 1/3EVステップ刻みの調光補正機能がついている。ちょうどよい発光量に調光指定ダイヤルを回して調節するといい。ダイヤル式だから、直感的に操れ、と ても簡単。
カチャ、カチャというこのダイヤルのフィーリングも最高に気持ちいい!

2. より自然な写真表現のためのフラッシュ

夕暮れや夜のイルミネーションシーン。心奪われる瞬間を、見たまま、感じたままに写真にしたいと思う人は多いだろう。
しかし、背景をきれい撮りたいけれども、手前に別の明るさの被写体があったとき、背景の露出に合わせると、手前の被写体は明るくなってしまう。逆だと、背景がつぶれてしまう……。
この作品では、背景の夕日に露出を合わせながら、手前を歩く親子の色をフラッシュ光で起こしている。

カメラの露出は背景に合わせる。手前の被写体の色をフラッシュで起こす――基本的な撮影テクニックではあるが、使い方によって、記念写真から作品へと高められる。
ポイントは、光量バランス。EF-X20の調光指定ダイヤルを回しながら調整し、フラッシュを使ったかな?というぐらい微発光させる。
シャッタースピードを遅くしてバックの被写体をぶらしてみたり、標識の反射板の光を利用してみたり……やり始めたらいろいろなアイデアが浮かんできた。フラッシュ1つで、圧倒的に撮影範囲が広がる。夜だから、暗いから……撮れないことはない。

ハワイの大人気ベーカリーのネオンに車を絡めて。ネオンの色を出しながら、上方の木々の葉も入れ、車は主張し過ぎず暗くなり過ぎないフラッシュ光量に。この場合は1/4ぐらいがベスト

(左)適正、(中央)やや明る過ぎ、(右) やや暗め

3. アーティスティックな作品へと高めるフラッシュ

ヨーロッパの田園風景だと思われるかもしれないが、これは実は都内の公園で撮影したもの。フラッシュ光を生かして、アーティスティックな作品作りに挑んだ作品である。

夕方の光を受けた菜の花が風に揺らめき始めた。あえてシャッタースピードを遅くして、揺れる花に動きを出す。ただ、手前の一部分はフラッシュで動きを止める。
露出は夕日に合わせながらも、より日の光を再現するため-1補正。ホワイトバランスは「日陰」にして、アンバーな感じを演出。カメラの露出、フラッシュ、ホワイトバランスの組み合わせによって、多彩な作品表現ができる。
このような撮影では何といっても、X-Pro1やX100に搭載されている「光学ファインダー」が便利だ。シャッターを切った瞬間にブラックアウトしない。“フラッシュが発光した”という手応えをファインダー越しに確実に得ることができる。これが意外と撮影でも重要。

こちらは、花の黄色、空の青紫、流れる雲の形を表現した作品である。露出は空に合わせ、手前の花はフラッシュで起こす。ホワイトバランスを「白色蛍光灯」にしてマゼンタを強くし、空の色を整えている。
フラッシュの光は、画面の奥にいくに従って段階的に弱くなる。フラッシュ光の当たる手前側=第1層、フラッシュ光がやや弱くなる第2層、 フラッシュ光の届かない第3層と、レイヤーをイメージして構図を決めていくといい。この場合は、第1層=黄色の花、第2層=茎の形のきれいな花、第3層= 空である。

「フラッシュが気持ち当たっている」とギリギリ分かるぐらいの発光がいい。ちょうどいい具合になるように、フラッシュ発光量や露出を変えて何枚か撮ってみるといいだろう。

(左) X-Pro1 XF18mmF2 R: F16 1/15秒(-1補正) ISO200 (右) X-Pro1 XF18mmF2 R: F5.6 1/125秒 ISO200

4. スレーブ機能で光を操るフラッシュ

EF-X20でうれしい機能が「スレーブ」である。ここでは、フラッシュ内蔵のX100と組み合わせてみた。EF-X20には三脚ネジアダプターが 付属されているから、手持ちの三脚をフラッシュの固定に使える。レストランで料理を撮影するときなどにも、簡単に、コンパクトに、このテクニックを使え る。
スタジオでの花撮影では、X100のメイン光に加え、EF-X20を花の後ろ斜め45°からスレーブさせた。背後からのほのかな光によって、花の輪郭が際立ち、花びらの質感も出る。
X100の「NDフィルター」をONにすれば、絞りを開けられるので、ボケを生かしたフラッシュ撮影という離れ業もできる。

●スレーブとは? カメラ本体などのメインフラッシュの光に反応して、サブフラッシュが自動的に発光するテクニック

撮影してみると、スレーブフラッシュでここまで発光量を切り替えられる(1/1~1/64)のはありがたく、特に1/64はよく使った。そして何より、発 光量調節がダイヤル式で、しかも大きく、それが天面に配置されているので、カメラを構えた位置からでも設定を確認、発光量の切り替えができる。このとき も、カメラは構えたまま、手を伸ばして発光量を調節……と撮影していった。

EF-X20を手に入れると、レンズを1本買い足したようにと言わないまでも、それと同等に撮影領域を広げられる。爆発的に可能性と楽しみが広がる! 奥が深い。
また、X-Pro1、X100のコンセプトを受け継ぐEF-X20は、デザインも材質もX譲り。いかにこのフラッシュが細かいところまで追い込んでしっか りと作られているかは、手にするとあらためて実感できる。カメラにつけたときに、すべての操作系が視認できるのもいい。
EF-X20で手に入れられる世界は、誰もが享受できる。片手にすっぽり収まる、でもすごい力を秘めた秘密兵器――EF-X20。この新たな武器を手に、あなたにもフラッシュで広がる世界を体験してほしい。