Different Breed: パトリック・ラ・ロック x X-Pro3

2019.10.23

静かに描かれる軌道

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FUJIFILM X-Pro3 & XF35mmF1.4 R

インスピレーションが湧かないまま、ただ座っていた。見知らぬ街の、ありふれた、何の変哲もない部屋で。そのとき一陣の風がカーテンを舞い上げ、生命を吹き込んだ…

箱を開けてX-Pro3を取り出したとき、正直に言うと、目の前にある物体が何なのかすぐには理解できなかった。液晶画面はどこにあるのだろう? ほぼ何もない背面に四角く光るこの小さなスクリーンは、一体何なんだろうか? 疑いの気持ちが波のように押し寄せるのを感じ、冷や汗さえ滲んだ……切れ込みを見つけて引いてみるまでは。現れたチルト式の隠しタッチスクリーンは、十分に使えそうだ。
レンズを取り出し、カメラの電源を入れた。新しいフィルムシミュレーションはいろいろ遊べると聞いていたので、まず最初にこの機能を選択し、何ショットか撮影したら、だんだんと惹かれ始めた。
そして、心に明かりが灯った。

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FUJIFILM X-Pro3 & XF35mmF1.4 R

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「仕事用カメラ」として初めて使ったFUJIFILM製のカメラはX-Pro1だ。このカメラを購入したのは、プロ写真家として長年使用してきたシステムを入れ替えるという具体的な目的のためだった。そして、X-Pro2が発売されたとき、本格的に惚れ込んだ。操作性からスペック、ルックスまで、X-Pro2のすべてが、これこそまさしく求めていたものだと感じられた。FUJIFILMから発売されたばかりの防塵・防滴のXF35mmF2を合わせて、一晩、雨にぐっしょり濡れながら夜の東京の街路を撮って以来、昔のカメラのことは忘れてしまった。このキットなら、どんな撮影でもこなせるだろう。
自分にとってほぼ完璧なマシンの後継機種に、FUJIFILMはどんなカメラを出してくるだろうか。あちこちで噂を耳にしつつ、具体的な話は一向に聞こえてこなかった。忠実な相棒が相棒のままでいてくれるよう、Xシリーズのアイデンティティをそっくり引き継いで欲しいというのが、唯一の願いだった。そして今、本心から一片の疑いもなく、X-Pro3が私の手から離れる日はしばらく来ないだろうと感じている。

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まず、CLASSIC Neg.にすっかり惚れ込んでしまった。このフィルムシミュレーション(名高いSuperia 100がベース)は、きわめて独特な印象のファイルを生成する。右側のボックスすべてにチェックを入れた状態(私の場合は、だが)を起点にした画像処理が可能だ。まるで新品のクレヨンを手に入れたような気持ちがする。しかしこれは、ソフトウェアの点から見た氷山の一角に過ぎない。メニューを一通り見て、カスタム機能と基本性能に徹底的な改良を行ったことが窺えた。Qメニューの項目を減らしたければ、いくらでも調整可能。Qメニューをまったく使わないなら、ボタンを別の機能に割り当てれば、その後はすっきり使える。AFレンジリミッターや新しいトーンカーブUIがあり、ポジもネガも明瞭で、多重露光はまさしく多重(最大9ショットまで)。新しいカラー・クローム・ブルーエフェクト(レッドに加えて)もあり、プリセットをカスタムするとすべての設定項目が保存される。そう、すべての設定が。

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FUJIFILM X-Pro3 & XF35mmF1.4 R

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FUJIFILM X-Pro3 & XF35mmF1.4 R

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FUJIFILM X-Pro3 & XF35mmF1.4 R

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FUJIFILM X-Pro3 & XF35mmF1.4 R

もっと重要なのは、物理的変化、人間工学的な変化に関わらず、このカメラは徹頭徹尾X-Proらしさにあふれ、正統であると感じさせてくれることだ。ハイブリッドビューファインダーはそのままで、フォームファクターは進化したものの全体的に馴染みがあるので、実際、何かが足りないと感じたことは一度もない。ミニマリズムには微塵も魅力を感じない。自分に限って言えば、カメラはツールである以上、カメラを使うという体験の中心は機能でなくてはならない。私見では、このデザインはきわめて繊細なバランスを見事に取っていると思う。液晶画面を直接使えないことを小細工だと感じる人もいるだろう。しかし、そうではない。私自身は、GFXカメラで実感しているように、サブモニターの価値を認めている。しかし同時に、余計な「ノイズ」とでも言うべきものがなくなったことを嬉しく思う。私たちを囲む世界では今日も、ますます多くのデジタル画像が撒き散らされ、人々の注意を引こうと絶えず競争が繰り広げられている。そんな中にあって、ノイズがないことは驚くほど効果的だ。必要なとき、機能はそこに存在しているけれど、必要ないときには隠れている。これまであったものよりも優れていながら、進化を邪魔するものではない。予想外だが、歓迎すべき安らかなオアシスだ。総合的な結果は実のところ、予想を裏切るシンプルさだ。X-Pro3はかつてないほどパワフルでありながら、その存在を主張しない。

人はときに、期待していたよりも遥かに穏やかな道へと導かれることがあるのだ。

焼けつく日差しと入れ替わりに、激しい雨が襲いかかる。雨をしのぐ場所を求めて走る者もいれば、そのまま静かに成り行きに任せる者もいる。しばらくすれば、濡れた路面に照り返す光と暗闇が待ち受けているだろう。ヘッドライトが投げつけるように光を放つ、ナトリウムランプのオレンジに染まる夜だ。静かに描かれる簡潔な軌道を信じて、目を凝らし、耳を傾けよう。
何ものにも邪魔されずに。

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FUJIFILM X-Pro3 & XF35mmF1.4 R

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FUJIFILM X-Pro3 & XF35mmF1.4 R