センティルは2015年富士フイルムのデジタルカメラX-T1に出会い、その可能性を感じ、後にX-T3を手にします。彼は、このカメラならば長年温め続けていたアイデア”光で画く写真”に挑戦できるという思いを確かにします。
そして、手漉きの和紙を支持体とし、写真と絵画の境界線のあいまいな部分にこそ、このアイデアの実現があるとの考えに至ります。
このユニークな表現は、「真実から素材へ」という彼の哲学にもとづいて構築されたものですが、驚くべきことに、どのイメージも画像編集ソフトなどによるポストプロダクションプロセスを経て制作されたものではないのです。ここではカメラは、あたかも絵筆として存在しています。
歴史的に、水彩画と写真は多くの共通点があります。
カメラが発明される前は、水彩画は記録媒体として使用されていたのです。そしてともに、大切なホビーの一つとしても。それから、水彩画もカメラも(現在のカメラはとくに)持ち運びが容易で、手軽な表現手段であるため、アマチュアからプロフェッショナルまで幅広く使用されています。
センティルは、インドのチェンナイの芸術工芸大学で学術的に造形を学びました。ここで彼は、コマーシャルにおける強い視覚表現のために「エキゾチックな」場所、風景、祭り、そして人々を用いるという手法を着想します。
一見すると、写真を水彩画のように表現するというセンティルの動機は、彼の郷愁と近しいもののように見えます。しかし実際は、懐古的な郷愁とは逆に絶えず変化しているスピード感あふれる世界への挑戦という欲求が、彼の創作の源なのです。