Raghu Rai:写真家としての軌跡

01.14.2022

私が若いフォトジャーナリストとしてヒンドゥスタン・タイムズ社に入社したのは、今から50年以上も前の1964年のことです。当時、私の周りの先輩ジャーナリスト達は中判カメラを持ち歩いており、なぜこんなに面倒な機材を持って取材に行くのか不思議に思ったものでした。中判カメラは 被写体が近く、人混みに飲まれるような状況でなければ35mm判よりも画質が良いのは事実です。しかし、35mm判を使った場合は、広角レンズや望遠レンズを使って被写体に近づけるという利点がありました。

GFX100S & GF32-64mmF4 R LM WR

1998年、富士フイルムはハッセルブラッドとの共同開発プロジェクトとして、FUJIFILM TX-1という素晴らしい機材を発表しました。それは、65x24mmのワイドパノラマ・ネガを生成する非常にユニークな製品で、標準的な35mm判を2枚並べた幅にほぼ等しく、世界をパノラマで切り取ることができるようになりました。 私が深く愛する祖国インドは、ほとんどの都市が過密状態にあります。インドでの生活は私にとって水平的、且つ多層的な経験でした。西洋の巨匠たちは、空間の中の一瞬を切り取ると言いましたが、インドではどの空間でも心躍るような出来事が常に起きています。TX-1は世界の一瞬を切り取るだけでなく、世界をより大きく映し出すのです。これこそが、私が探し求めていたものだったのでしょう。私にとってのインドとは一体何なのかを探求すべく、自分の心に映るインドをパノラマでフレーミングし始めたのです。

それが数年続きましたが、デジタル技術の登場によって私のアプローチは大きく変わり、事態は思いもよらない方向に進み始めました。デジタル技術が私の写真家としての人生を変えた、と間違いなく断言できます。クリックすればその場で画像を確認でき、自分が向かうべき方向を理解できる点で、この技術革新は非常に挑戦的で、充実した経験をもたらしました。ただ、フィルムカメラには戻れなくなったためTX-1を使うこともなくなり、パノラマを使った体験への愛着が薄れてしまったことも事実です。

GFX100S & GF32-64mmF4 R LM WR

35mm判フルサイズのデジタルカメラを使用していた私にとって、世の中の高画素化の流れは驚くべき画質とディテールを得るのに十分なものでした。写真家としての私の人生はとてもスムーズに進んでいましたが、外の世界では私の理解を超えた何かを考えている人達がいたのです。そして、1億画素を超えるラージフォーマットカメラのFUJIFILM GFX100Sが登場しました。このカメラは他のフルサイズカメラと同程度のサイズと重量感です。さらに驚くべきことに、GFX100Sには4×5、2×3、そしてパノラマ(デジタル技術が写真の世界を支配して以来私が失っていたフォーマット!)が搭載されています。豊富なGFレンズによって、新しいクリエイティブな表現が世の中に生まれました。このカメラは、非常に軽量であるだけでなく、様々な機能を調整できるため、非常に効率的な撮影が可能です。低照度下でもダイナミックレンジは約6段分補正が効いたため、充実感と満足感を感じながら撮影ができました。

GFX100S & GF32-64mmF4 R LM WR

今回、GFX100Sを使って世界遺産であり、岩窟建築の典型であるアジャンタ石窟群とエローラ石窟群の撮影に取り組みました。
これらは紀元前200年から西暦100年までにつくられた30のアジャンタの洞窟と、西暦600年から1000年までにつくられた34のエローラの洞窟からなる岩窟建築の修道院と寺院の洞窟群です。職人たちは岩の上から何百本もの柱を切り出し、掘削したのです。それぞれの柱には非常に複雑な彫刻が施され、他の柱とは異なる模様が描かれています。そしてその柱の中に大きなお堂が作られ、仏陀のような神々が弟子たちと一緒にいる様子が伺えます。そして、シヴァ神と彼が創造した奇跡の叙事詩、その他のヒンドゥー教の神々もいます。そして、最も驚くべきはジャイナ教の洞窟で、古代文明の驚くべき傑作が、完璧な形で現存しています。

GFX100S & GF80mmF1.7 R WR

GFX100S & GF23mmF4 R LM WR

GFX100S & GF32-64mmF4 R LM WR

石窟群の内部での体験は、写真家にとって無視できない、魅力的で挑戦的なものです。GFX100Sと超高画質レンズのおかげで、彫刻のディテールや広大な洞窟の中の雰囲気を撮影することができました。