A film crew prepares a shot of food

思考の糧

2022.09.20

Nivi Shahamのひとくち写真で、食事にまつわる喜びと悲しみを明らかにする

そこは食事とカトラリーが出会う場所であり、家族がパンを頬張る場所でもある。出勤前に急いで作るサンドイッチ、9品のアラカルトメニュー、スープ鍋にたっぷりと注がれたスープ。そこには独自の経済的、文化的、そしてその他の事情があり、また、希少性と豊かさ、味と質によって定義される。摂取の形態は違っても、食のしきたりは同じである。

皆栄養について考えているが、Nivi Shahamは他の誰よりも思いを巡らせている。4年前に過敏性腸症候群(IBS)と診断されてから、当時UCDの1年生であった彼女の食生活は、たちまちに一変した。 「これまでとはまったく異なる方法で料理する必要がありました」と彼女は話しはじめる。「不思議なことに、そこから料理が好きになり、さらにはその過程を写真に収めることが好きになりました」

必要性があったから始めたことが、あっという間に有益な習慣となった。ソーシャルメディアに溢れるレシピや Vlogなどといった料理コンテンツに触れ、Niviの食やコンテンツに対する欲はより洗練されていった。

「特定のスタイルで製作された多くのメディアを吸収しました。全て2018年、大学一年次に起こったことです」

「カメラは所有していましたが、その年はほぼ手付かずの状態でした。学業に専念していたため、写真を疎かにしていたのです。両方の趣味を融合させることができるのではないかと思い、挑戦してみることにしました。」

政治学を専攻していたNiviは、可能な限り多くの時間を割き、勉強に没頭していた。法律関係の仕事に就きたいと考えていた為、その勉強量は当然のことながらかなりのものだった。

「弁護士を目指していた私ですが、途中から何かが変わりました。フードフォトグラフィーが仕事としてあり得るとは思っても見ませんでした。学校から離れたことで、自分が進むべき道が見えてきたのです」

A woman monitors a screen, showcasing the setup of a commercial food shoot

Photo 2022 © Justin Stailey | FUJIFILM X-H2S and XF16-55mmF2.8 R LM WR, 1/40 sec at F2.8, ISO 800

暇さえあれば、Niviはその機会を利用していた。おやつを撮影することは、大学生活でのプレッシャーから解放されることでもあり、その楽しみは、さらに広がっていく。

「自分のレシピを撮影し、そこから発展していきました」と彼女は言う。「私は写真撮影がとても好きでした。地元のレストランに電話して、彼らの料理の写真を撮らせてもらえないか頼んで、ゆっくりと、でも確実に、ポートフォリオを作りはじめました」

2020年、NiviはStudents of Storytellingコンテストで最優秀賞を受賞した。彼女の受賞プロジェクトは、さまざまなシェフの情熱的な物語に焦点を当て、アメリカ中の調理場での彼らの成功と動機を探求するものだった。

「このコンテストがきっかけで、コマーシャルフォトに興味を持つようになりました。多くのことを学びました。より壮大なストーリーを伝えるということについて、とてもよい入門になりました」

これまでの実績をもとに、先日、X-H2の発表に参加することが決まった。広告スタイリングの世界で活動するNiviは、よく出来た広告や派手な看板のような表面的なものではなく、より奥行きのあるシリーズを作りたいと考えた。

より内省的な考察を念頭に置き、彼女は最終的に「Misconceptions」を制作した。これは、ある特定のテーマについて食べ物が何を意味するのか、考えさせられる作品である。

「Scarcity」「Nourishment」「Efficiency」「Indulgence」「Joy」の5つの項目に分けられ、各項目は特定のアイデアについて、ストップモーションの繊細な切り抜きでその違いを表現している。

A woman gazes intently at a laptop, monitoring the upkeep of a commercial food shoot

Photo 2022 © Justin Stailey | FUJIFILM X-H2S and XF16-55mmF2.8 R LM WR, 1/40 sec at F2.8, ISO 800

「5つのうち3つの項目は、食糧難の中で生きる人々が直面する選択肢について表現しています。これまでの視点を覆し、その経験に光を当てるものです。」

緻密に配置された各章のディテールを見ていると、彼女がそのテーマを熟知した作り手であると思いがちだが、現実はその逆である。その分、彼女の表現力には目を見張るものがある。

「この作品は決して自伝的なものではありません。私は裕福な家庭に生まれましたが、あまり報道されない問題を取り上げたいと思いました」とNiviは説明する。

「『How the Other Half Eats』 を読んで、特定の要因に基づいている私たちの食生活について、目を見開かされました。経験していない人は、その現実を理解していないのだと気づきました。私は、そのような無知に語りかけ、このような人々が直面している課題について、多くの人に知ってもらいたいと思ったのです。」

Niviのシリーズのタイトルは、作品の持つ対立的な性質を表している。彩度が高く、気まぐれな彼女のスタイルは、美学的に空想的で、Joan Steinerの「Look-Alikes」の古風な色調を思い起こさせる。しかし、深く掘り下げると、それこそが狙いであることに気づくだろう。古くからあるスタイルを巧みに作り変え、現代の恐怖や不確実性に対する切迫したメッセージを伝えている。

「『Scarcity』は、そういった不安感や、それが実際どのようなものであるかを表現したものです」と彼女は続けます。「もしあなたが家族で、1ヶ月分の食料を購入したとしたら、この作品は、その資源がどれだけ早く減少し、食料棚の中が完全に空っぽになってしまうかというところまで表現しています」

映像が終わりに近づくと、ストップモーションの各トランジションのスピードを緩めていく、というさりげない演出を加えている。この比喩は、家庭によっては資源を使い切らないように節約し、消費を控えめにしなければならないことを意識させるのに効果的だ。

「誰もが苦労せずに得ることができるものを、自分は必ずしも手に入るとは限らない、というのがこの状況の現実です」

A selection of food items dissipate across pantry shelves

‘Scarcity’ © 2022 Nivi Shaham | FUJIFILM X-H2 and XF33mmF1.4 R LM WR, 1/125 sec at F11, ISO 125

この説を補足すると、「Nourishment」は身分の違いによって大切な糧を得ることができないことを強調している。静物画のように収められた写真は、長い木のテーブルの上で様々な食材が切り刻まれ、変化し、まるで豪華な王宮の饗宴のように演出されている。

パチパチと音を立てるキャンドルで飾られたこの作品は、過剰と貪欲を鮮明に連想させるもので、フレーム中央で減少し、再び現れるドルの追加によって再確認される。むしろこのセクションは、お金を使う力の重要性と、資本が最終的に特定の食物へのアクセスをどのように左右するかを照らし出している。

「『健康食品 』の両側面を強調するためのものでした。まずは大量の紙幣がある状態で始まり、サーモン、アボカド、ピスタチオ、ケールといった高価な食材を見つけることができます。次第に、食事の内容が変化していくのがわかるでしょう。具体的には、より安価な代用品が登場します。例えば、ピスタチオの代わりにピーナッツが登場します。」

「経済状況によって、健康的な食品の種類に違いがあることを認識してもらうことが重要です。どちらが悪いということではなく、入手しやすいかどうかということです。経済的に余裕があればあるほど、より良質な、原料に近い『食材』を手に入れやすくなります。添加物や保存料を排除し、自然のままのものを手に入れることができるのです。」

A selection of food items populate a long wooden table

‘Nourishment’ © 2022 Nivi Shaham | FUJIFILM X-H2 and XF33mmF1.4 R LM WR, 1/25 sec at F11, ISO 400

「『Efficiency 』も同じような発想で生まれました。この作品は、必要に迫られて、できるだけ早く食べ物を作らなければならないという内容でした。この夜のシーンは、長時間労働で時間に追われている人を連想させるものだと思います。そのような状況では、じっくりと考えて食事を考える時間がないため、栄養価の高い選択肢を見送ることになるのです。」

これらの作品を通して、X-H2の力は、Niviの目的を容易にするのに役立った。技術的な考察を経て、具体的なテクニックの重要性、そして最新のXシリーズカメラが抽象的なアイデアを具体的に実現させたことを語っている。

「ディテールのレベルを最大にするために、画像全体に広がるようなF値を使用する必要がありました。また、レンズとテーブルの距離を見極め、それに見合ったガラスを選択する必要がありました。最終的に、フジノンXF56mmF1.2 R WRとXF33mmF1.4 R LM WRを使用しました。普段はマクロで特異性を出していきます。質感のあるものには最高だと思います。これらの単焦点レンズでは、細部まで表現できることに驚いています。やはりすごいですね。」

コマーシャルを制作する上で明瞭さと定義づけは不可欠ですが、ここではNiviの想像力の精密さを象徴しています。

「マニュアルからオートフォーカスに切り替えることで、特にストップモーションを扱う際のプロセスが効率化されました。また、このカメラから得られる色も素晴らしいものです。編集がとても楽になりました」と彼女は説明する。

Various ready meals are housed in a rotating microwave

‘Efficiency’ © 2022 Nivi Shaham | FUJIFILM X-H2 and XF56mmF1.2 R WR, 1/125 sec at F11, ISO 125

「制作中は、ハイライトを調節し、より温かみのある色調に傾くことが多いです。コントラストを上げるために、黒とシャドーを強調するなど、さまざまな調整を行います。もちろん、イメージによりますが。暗いシーンは、色調をかなり冷たくしておきました。」

これらの作品は、食糧難がもたらす暗く厳粛な状況に集中しているが、Niviは、このテーマに対する彼女の愛と情熱を反映した2つの部分を取り入れている。『Joy』と『Indulgence』は、暗いエピソードとは対照的に、比較的明るく陽気で、厳しさに対抗する楽観主義を表現している。

「『Joy』は、自分の文化を共有することで得られる幸せ、意義や大切なことを表現していました」とNiviは総括する。「料理はその一部です。私はイスラエル人なので、私の好奇心の多くはその土地に由来しています。料理はとても特別なものであり、私自身を映し出すものでもあります。私は他の伝統に対してもそれを示すことを選びました。」

回転棚によって、ベトナム料理、メキシコ料理、インド料理、アメリカ南部料理が紹介され、食の重要性は、すべての文化的アイデンティティの本質的な部分であることが強調される。食は私たちの個人主義を定義するものだが、別の意味では、私たち全員が共通して持っているものでもある。

A lazy susan cycles through a variety of international cuisines

‘Joy’ © 2022 Nivi Shaham | FUJIFILM X-H2 and XF56mmF1.2 R WR, 1/13 sec at F11, ISO 400

この相互関係の感覚を包含するように、このシリーズの最終パートは、おそらく最も不可欠なメッセージで締めくくられている。「Indulgence」の親和性は、フレームの隅にあるテーブルの上に散らばった年金書類の中に示唆されている。典型的なパーティ用のつまみの空き箱がイメージ内に散在し、隣のパズルが完成していく。

このシナリオは、まるで大家族の集まりのスナップショットのように、何世代もの親族が集まって、ひとつになって食事をするというシンプルで力強い行動を示している。

「『Indulgence』には、ファーストフード類が多く登場します。家族でこれらの食品を購入できることは、人間関係にとってどのような意味を持つのでしょうか。私は、この食事を囲み、お互いの時間を共有することを想像しました。」

「 我々は低所得者がファーストフードにお金を使うことについて無駄遣いであると誤解しています。この最後の作品は、そのような誤解を解くためのものです。単に食事を提供するだけでなく、他にどういう効果があるのかを考えなければなりません。」

「この特定の例では、質の高い時間、楽しみ、そして食べ物全体が持つパワーが全てです。状況に関係なく、私たちは皆、そのような食事を摂れるべきです」

An assortment of junk foods populate a messy kitchen table

‘Indulgence’ © 2022 Nivi Shaham | FUJIFILM X-H2 and XF56mmF1.4 R LM WR, 1/125 sec at F11, ISO 125